図2(上段)は、横軸に国内総生産(GDP)、縦軸に税収(T)、政府支出(G)をとっている。いま、一定の財政構造(政府支出はGaの水準で、税収TはGDPに比例する)のもとでは、GDPがY*であれば、財政収支は均衡する。しかし、同じ財政構造のもとでもGDPがY1の水準にあれば、財政収支は赤字となり、逆にY**のようにY*を上回れば、財政収支は黒字となる。
このように、ある与えられた財政構造のもとで、GDPの動きに合わせて財政収支は黒字となったり赤字となったりする。この関係を表すのが、図2(下段)である。
横軸はGDPのまま、縦軸には財政余剰(財政黒字)(T-G)をとっている。先の財政構造に対応するのが予算線aである。政府の財政政策が変化し、財政構造が変化すれば、予算線自体がシフトすることになる。
いま図2(上段)において、政府支出がGaからGbへ上昇したとしよう。このとき、政府支出の水準がGaの場合にはGDPはY*で均衡していたが、Gbのもとでは財政赤字となる。つまり、いまの政府支出Gbの財政構造を支えるにはより大きな経済規模(課税ベース)が要求され、財政収支を均衡させるGDPの水準はY*よりも右側にずれ、Y**と大きな水準となる。
この場合の予算線は予算線aよりも下方にシフトした予算線bとなる。このように、財政収支構造(財政政策のスタンス)が代われば、予算線の位置も違ってくる。
雇用を満たした上での財政赤字
いま、完全雇用GDPをY*とし、現実のGDPをY1とする。このとき、予算線aも予算線bも財政赤字となるものの、両者の財政赤字の持つ意味は実は異なる。
予算線aの場合の財政赤字ABは、景気がY1からY*へと回復していく過程で次第に解消され、完全雇用GDPの水準でゼロ(点E)になり、財政収支は均衡する。つまり、予算線aのもとで発生している財政赤字は、現在の財政収支構造のもとで、景気の落ち込みを反映した循環的財政赤字ということになる。
循環的財政赤字は、経済が景気後退期にあり、完全雇用GDPを下回る場合には不可避となるが、殊更大きな問題であるとは言えない。なぜなら、完全雇用が実現すれば、税の自然増収を通じて自動的に解消されるからである。たまたま財政赤字が発生していたとしても、この赤字は経済活動の縮小を反映して受動的に発生したものに過ぎない。
しかし、予算線bの場合は事情が異なる。財政赤字がACだけ発生しているが、景気が回復して完全雇用GDPに到達したとしても(点F)、依然としてBC部分の財政赤字が残ってしまう。つまり、いま経済がY1にあり、予算線a、bともに財政赤字が発生しているにしても、予算線aの場合には循環的財政赤字ABだけなのに対して、予算線bの場合には、循環的財政赤字ABだけでなく、構造的財政赤字BCも含んでいる。
このように、経済が完全雇用GDPを実現したとしても発生する財政赤字を完全雇用財政赤字と呼んだ。現実に発生している財政赤字が循環的財政赤字だけでなく構造的財政赤字を含む場合には、たとえ景気が回復し完全雇用が達成されたとしても、決して財政赤字は解消されない。
これは、現行の税制のもとで完全雇用GDPが達成されても、潜在的に徴収可能な税収能力をはるかに上回る規模に歳出が膨張しているからにほかならない。このようなケースでは、歳出規模や租税構造の見直し、それらの組み合わせの変更によって、財政収支構造を改善し、図2(下段)で言えば、予算線bを予算線aにまで上方シフトさせるような財政再建策が必須となる。