2024年5月14日(火)

Wedge2023年8月号特集(少子化対策 )

2023年10月1日

子育てのお金も時間もない
中国で生きる若者らのホンネ

 結婚・出産の阻害要因としてまず指摘されるのが住宅購入負担だ。一般的な住宅の購入資金として、日本では年収の15年分が必要だといわれるが、中国の4大都市(北京、上海、深圳、広州)では実に年収の40年分が必要になるという。また、国家統計局によれば、これらの都市では過去21年間で不動産価格が10.7倍に高騰しており、普通のマンションでも1億円を超えるのがザラだ。さらに、結婚時には伝統色の濃い農村部だけでなく、都市部でも婿家族に新居の購入や頭金の拠出を求めるケースが近年一般化し、結婚を望む世代にとって深刻な負担になっている(詳細は拙著『シン・中国人』≪ちくま新書≫を参照)。

 日本で博士号を取得し、北京の有名大学で教鞭を執るAさん(32歳男性、18年に結婚、子どもなし)も住宅購入に頭を抱える一人だ。

 「買えない! 北京の住宅は東京と比べてもはるかに高く、自分の月給(約24万円)では手が出せない。北京で家を買う人はみんな金持ちの親の金銭的支援が前提です」

 穏やかなAさんが、伏し目で強く「無理ですよっ!」と吐き捨てるように言った。有名大学の正規教員でも北京での住宅購入は至難の業らしい。

 そして、将来の子どもの出産を決める要因を聞くと「お金と時間。僕は両方ない」とバッサリ。「妻は子どもを欲しがっていますが、今は経済的にも時間的にも無理だから待ってくれと頼んでいる」のだそうだ。

 「子どもは本当にお金がかかる。塾禁止? でもみんなこっそりやっていますよ。上海の12歳の子を持つ親に聞いた話ではピアノ、ダンス、水泳、バドミントン。大学だって4年の学部卒じゃだめ。修士課程まで出さないと」と言う。続けて「それに時間もない。大都市で食べていくのに十分な地位と財が先。子どもはいなくてもいい」と語る。

 一方、Bさん(34歳女性、既婚・子ども1人、安徽省小都市の政府系外郭団体勤務)は夫の両親がBさん夫婦と同じマンションに住んでおり、小学生の娘の送り迎えや夕食などの面倒、さらには財政面での支援など、子育てに関して彼らからの全面的なバックアップを得ている。しかし、それでも子どもの教育には疲れているという。

 平日の夜8時に娘の宿題の指導をする傍らでBさんはこう語る。

 「子どもの課外クラスはいっぱいあるし、受験のプレッシャーもあります。親子ともに息ができないほど教育の負担は重いです。宿題自体は多くないですが、うちの子はのろのろやってなかなか終わらないですし。その後はピアノの練習があり夜は遊ぶ時間もありません。ピアノのレッスンはこの地域では高めで1回5000円。今後は塾で受験用の英文法を習わせる予定で学費もかかります」

(続きは下記リンク先より)

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Wedge 2023年8月号より
日本の少子化対策
日本の少子化対策

結婚・出産を望まないのは、若者・子育て世代のワガママであり、自分たちが選んでいること―。こう思う人がいるかもしれない。だが、経済情勢から雇用環境、価値観に至るまで、彼らを取り巻く「すべて」が、かつての時代と異なっている。少子化を反転させるため、岸田政権は異次元の少子化対策として経済支援の拡充を掲げるが、金額だけ次元の異なる政策を行っていても、少子化問題の解決にはつながらないだろう。もっと手前の段階でやるべきことがある。それは、若者や子育て世代の「本音」に耳を傾けることだ。


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