軍関係者は「毒蛇の頭を切断すれば、胴体はばらばらになる」と分析しており、2人の殺害でハマスの全組織に打撃を与えることが可能と判断している。イスラエル側は2人の殺害が地上侵攻の成果としての「最低のライン」と考えているようだ。イスラエルは2人のほか、もう1つの過激組織「イスラム聖戦」の指導者ジアド・ナハラの抹殺も計算に入れている。
だが、シンワールらの殺害は解決にならない。なんとなれば、ハマスの最高指導者イスマイル・ハニヤはペルシャ湾岸のカタールに在住し、そこから指揮しており、また多くの幹部はレバノンのベイルートに居住しているからだ。
酸鼻極める市街戦に
しかし、実際の侵攻作戦は酸鼻を極めた市街戦になる公算が高い。イスラエル軍は侵攻の前にさらに徹底した爆撃を実施し、ハマス戦闘員の士気を削ぐ構え。侵攻は北部のガザ境界にあるエレツ検問所と東部の2カ所から実施、ガザを南北に分断し、ハマスをガザ市などさらに狭い地域に封じ込める戦法だ。
数十両の戦車を先頭に兵士を乗せた装甲車両が続き、ブロックごとに綿密に掃討する作戦。交戦規定を緩和し、怪しい対象には厳格なチェックなしに発砲許可が容認されている。イスラエル側は道路が戦車阻止の障害物で封鎖されるケースを想定して多数のブルドーザーも動員した。
イスラエル軍はイラクのモスルでイスラム国(IS)を壊滅した有志連合軍の掃討作戦をモデルの1つとして想定しているが、人質救出も考慮に入れなければならず、より複雑なものになる。武装ヘリやドローンも常時、地上部隊支援に使うことになりそうだ。
対して、ハマスは約2万人の戦闘員を配備し、待ち伏せている。ガザの地下には〝メトロ〟と呼ばれる地下トンネルが縦横に張り巡らされ、ビルとビル、住宅と住宅をつないでいる。前回の侵攻時にはイスラエル侵攻部隊に70人の犠牲が出たが、これはまるで「もぐら叩き」のようにハマスの戦闘員が背後や横から神出鬼没に出現、彼らから意表を突く攻撃を受けたためだった。
ハマス側は基本的にこの〝メトロ〟を利用してのゲリラ戦を挑むものとみられている。このほか、道路脇や建物にはワナ爆弾を仕掛け、対戦車砲やドローンも動員しそう。人質を人間の盾にするどころか、人質の体に爆弾を巻き、イスラエル軍をけん制するかもしれない。かつて激化させた「自爆テロ」も準備している懸念がある。
戦闘は「1年半も続く」(現地メディア)可能性があり、終わりは見えないが、「いずれにせよ肉弾戦のような相当ひどい市街戦になるのは確実だ」(専門家)。病院攻撃のように民間人の犠牲が増大し、国際社会の非難が一段と強まった時、イスラエルがどう判断するかによるが、これまでのやり方を考えると、ネタニヤフ政権が動揺するとは想定しにくく、戦闘は続くだろう。