8月に行われた第1回投票では、左派の市民革命運動党の元国会議員ゴンサレスが約3分の1、実業家で右派のノボアが約4分の1の得票となり、当選基準(過半数の得票、または得票率40%以上かつ他候補を10ポイント以上リード)を満たしたものがいなかったため、10月15日の決選投票となった。
決選投票の結果は、ノボアが約52%、ゴンサレスが約48%の得票率で、ノボアが勝利した。バナナ帝国で財を成した富豪の後継者で2年の国会議員の政治経験しかない35歳のノボアが、コレア元大統領派のベテラン女性政治家であるゴンザレスに勝利したことは、治安の悪化と困難な経済状況に不満を募らせ、既存の政治家に失望している国民の判断基準が、将来に変化をもたらす期待にあることを明確に示した。
また、これは、19年のアルゼンチンの政権交代から、ペルー、チリ、コロンビア、そしてブラジルのルーラの当選へと続いたピンクタイドと呼ばれる南米の左傾化の潮目の変化を確定的なものにしたともいえよう。22年9月のチリの左派の新憲法案が国民投票で否決、同年12月のペルーのカスティージョ大統領罷免、23年4月パラグアイの大統領選挙での右派の勝利に続く左派の敗退である。
エクアドルでは中道右派の大統領が続くことになるが、ノボアは徹底的に現政権を批判し距離を置いており、むしろ中道右派というよりもアウトサイダー候補として変化を求める国民の期待を集めたと言える。その意味で、ペルーのカスティージョ、チリのボリッチ、コロンビアのペトロの当選の背景と共通するものがある。
すぐにでも必要な新政権の実績
ノボアの任期は、ラッソ現大統領の本来の任期であった25年4月までであり、それまでの1年余りの間に実績を上げ国民の期待をつないで再度選挙を戦わなくてはならない。
まず、治安の悪化、特に刑務所と犯罪組織の癒着を早急に是正する必要がある。大統領候補が暗殺され、刑務所に拘禁されていたその事件の容疑者が口封じのために全員殺害されるという信じがたい事件まで起こっている。
また、港湾施設が麻薬組織に牛耳られ麻薬の密輸に利用されているとも言われ、これらの問題に早急に取り組み国家を再建する必要がある。軍隊を国内治安対策に投入するための憲法改正も必要だろう。
膨らむ財政赤字の中で、教育や医療に関する公約を実現するための財源をどう調達するかも極めて難しい問題である。議会では、ゴンサレスのコレア派が最大多数党でノボアの党は第3党に過ぎず、色々と足を引っ張られることも予想され、茨の道となる。
今回の選挙結果は、上記の記事も言う通り、米国にとりラテンアメリカにおける影響力回復の機会であり、米国のエクアドルへの支援が望まれる。ウクライナ、イスラエル等、混沌とする国際情勢の中でどこまで手が回るかは疑問があるが、米国のコロンビアに対する麻薬組織対策が効果を上げた結果、麻薬組織が拠点をエクアドルに移し今日の治安の悪化を招いたとの見方もあり、今後は、少なくとも麻薬対策支援についてはエクアドルに重点を置くべきであろう。エクアドルの安定は、同国からの不法移民対策にも資するものだ。