北島にあった究極の省エネ泳法
水泳は他より速く泳ぎ、ゴールに達することで勝敗が決まる。速度を高めるには、前に進む「推進力」を大きくし、ブレーキとなる「抵抗」を小さくすることである。
『泳ぐことの科学』(吉村豊、小菅達男著、NHKブックス)によれば、北島のすごさは、最も抵抗が小さくなるストリームライン(手足を一直線に伸ばした流線形)の美しさと、その持続時間の長さにある。その姿勢を維持するために推進力も確保しなくてはならない。
そのため、平井コーチは、ビデオカメラなどによる泳法分析データを重視した。アテネ五輪で、JISSの研究員として、チーム北島に加わった岩原文彦さんは、「平井さんは、最も科学的データを重視したコーチ。我々のデータを北島の性格、特性をつかんで、うまく彼に伝え、フォーム改善に成功した」と語る。
北島の平泳ぎは、(1)手を外側にかく時間を短くし、その分少なくなった推進力を、リカバリー(手を頭の位置に戻す)時の浮力で得ている (2)頭の位置を持ち上げずにキックし、体が反らないようにして、膝の沈み込みを防いでいる (3)脚の引きつけが小さく、キックが弱い分、小さく素早くやることでカバーしている――ことにある。効率性の高い、北島にあった究極の省エネ泳法と言えるだろう。そのため、調子のいいときは、手のかく(プル)数と、キック数が極めて少ない。腹筋、脚のキック力が求められることはいうまでもない。
フォーム改造に、役立った映像(泳法)分析とはどんなものなのか。