ウォールストリート・ジャーナルの10月18日付け社説‘Venezuela’s Empty Election Deal’は、ベネズエラのマドゥーロ政権が野党連合と来年の大統領選挙の実施について合意し、バイデン政権がこれを評価して制裁緩和を正当化しようとしていることにつき、マドゥーロが公正な選挙を行うはずがなく時間の無駄だと批判している。要旨は次の通り。
10月17日、ベネズエラ政府は、来年大統領選挙を実施することについて民主派野党との政治的合意を発表したが、ほとんど中身は無い。政治犯の釈放も、野党候補の権利を回復する保証も、選挙管理機関の独立性を確保する方法も含まれない。
米政府当局者は、16日、バイデン政権がこの合意を制裁緩和の正当化のために利用する予定であることを記者団に漏らした。しかし、17日に発表された米国、欧州連合(EU)、英国、カナダの共同声明は、この文書が「包括的な対話プロセスを継続し、ベネズエラの民主主義を回復するために必要な一歩」に過ぎないことを認めた。つまり、ただの話し合いの継続だ。
現実は、不人気の独裁者マドゥーロは、クリーンな選挙を実施するつもりも、負けた場合に粛々と退くつもりもない。彼が約束することに前向きな理由は、制裁の解除を期待してのことである。
1998年にチャベスが勝利して以来、ベネズエラで信頼できる選挙が行われたことがない。チャベスは独裁者となり、死の床でその地位をマドゥーロに譲った。
オバマ政権、トランプ政権は、人権侵害と汚職を理由にベネズエラへの制裁を強化してきた。国連高等弁務官は、「ベネズエラは自由で信頼できる選挙のための最低限の条件を満たしていない」と指摘している。2020年3月には、米司法省はマドゥーロと14人のベネズエラの現職と元職の高官を「麻薬テロ、汚職、麻薬密売」などの罪で告発した。
しかし、バイデン政権は、マドゥーロに親切にすることが、ベネズエラをイラン、ロシア、中国の軌道から引き離す方法だと考えているようだ。
10月22日に野党の大統領予備選が行われる。マリア・コリーナ・マチャドが最有力候補だが、マドゥーロは24年の選挙への彼女の出馬を禁止している。もし彼女が22日に高い支持率で勝利すれば、野党のリーダーとなり、彼女は米国の支援に値する。
ベネズエラの石油産業は、20年以上にわたる犯罪的政権の下で崩壊しており、石油分析筋は、制裁の緩和がすぐに米国のガソリン価格の値下がりにつながることを疑っている。バイデン政権は、ベネズエラが違法移住者の送還に合意するかもしれないとも期待している。しかし、もし民主主義が米国の目標であるなら、マドゥーロを当てにするのは時間の無駄だ。
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マドゥーロのこれまでの行状に鑑みれば、この合意は制裁緩和目当ての見せかけに過ぎないとの上記の社説の指摘は理解できる。しかし、トランプ政権下で、最大限の圧力政策を続けて結局成果はなく、むしろマドゥーロの権力基盤は強化されたので、バイデン政権は外交による事態の改善に舵を切り替えたのである。
また、今回の合意は最初の1歩であり、制裁緩和措置は部分的かつ暫定的とされており、まだ続きがあるので、この段階で時間の無駄と決めつけるのはやや拙速だろう。