ノルウェーの仲介により2021年8月に開始されたマドゥーロと野党連合間との民主化に向けた交渉は、同年10月にマドゥーロの側近が米国におけるマネーロンダリング容疑で逮捕されたことを理由に一旦中断した。昨年11月に交渉は再開し、国連の管理する基金を設けて、ベネズエラ国内の貧困層向けの医療、食料、教育の支援を行う社会的側面に関する合意が行われた。
その後1年近くの間に水面下での協議が続いていたとみられるが、17日、バルバドスで交渉が再開され、大統領選挙を来年後半に実施し、すべての党がその候補者を決めることができ、EUや国連等の選挙監視団を受け入れ、すべての選挙キャンペーンに公平なメディアのアクセスを認める等の点を含む協定が合意された。協定のタイトルは、「すべての人の政治的権利と選挙の保障の促進に関する部分的合意」であり、すべての問題をカバーするものではなく、今後対話と交渉のプロセスを継続することも合意されている。
民主化選挙へ外堀を埋められるか
野党連合は、10月22日に大統領候補を決める予備選を行い、現在、マドゥーロ政権により立候補を禁じられているマリア・コリーナ・マチャドを候補として選出した。マドゥーロ政権は、マチャドらの野党の有力政治家の立候補を禁ずる措置を撤回しておらず、その点は10月17日の部分協定にも明示的に含まれてはいないが、米国は制裁緩和の撤回を圧力として使うことができる。
他方、10月19日付の報道によれば、米政府は、今回の交渉の進展を評価し、ベネズエラ産石油、天然ガス、金に関する取引について半年間の一般的な許可を与え、一部のベネズエラ国債や国営石油会社の債券・株式の取引を解禁した。米財務省は、マドゥーロが約束を守らなければこれらの許可は修正又は撤回され、またその他の制裁は引き続き維持されると説明した。
これまでのマドゥーロのやり方を見ていると、自らが敗北する可能性のある自由で公正な選挙を実施するとは思えないが、ベネズエラの状況は、天文学的なインフレは収まったとはいえ、年間400%の物価上昇は続いている。このような状況にベネズエラ社会がいつまで持ちこたえられるのか疑問である。
野党連合の結束を維持することは重要であり、制裁緩和の撤回の可能性もちらつかせながら、地域諸国の協力も得て民主化へ向けてマドゥーロを追い詰めていくことも1つの戦略であろう。