働く人のメンタル対策に国が動き出す。うつ病に陥る要因を定期的に調べるストレスチェックの実施などを企業に義務付けるため、厚生労働省は労働安全衛生法の改正案を早ければ次期通常国会に提出する。同改正案はこれまで数度、国会に提出したが、ねじれ国会での混乱から法案の採決にまで至らず、現在は廃案になっている。この行方がどうなるのか、法案成立で職場でのメンタルヘルス対策は進んでいくのか、想定される課題は何かなど、厚労省から事業場の産業保健活動を支援するサービスの整備・育成等事業などを受託し、同法に詳しい佐藤典久・メディカルトラスト取締役に聞いた。
佐藤典久(さとう・のりひさ)
島根県出雲市生まれ。1977年成蹊大学法学部卒業。ドイツ系製薬会社ヘキストジャパン勤務後、都内の病院・健診センターで事務長、事務局長を経て2001年、企業の健康管理室運営、産業医業務の請負などを手がけるメディカルトラストを設立。厚労省「平成25年度メンタルヘルス対策支援センター事業に係る企画書評価委員会」委員などを兼務。
小規模事業者のメンタルヘルス
取り組みが改正案の狙い
――労働安全衛生法は、職場における労働者の安全と健康を確保する、ことなどを目的に制定されたわけで、そこに近年増加する職場でのうつ病対策が盛り込まれることは、当然の流れだと思えます。しかし、メンタルヘルス対策が法律に書かれること、600万社を超える中小企業までが対象に含まれることは、多様な問題発生の因にもなる、との懸念の声もあります。この点を踏まえながら、まず、同法改正案がどうなっていくのか現状と今後の見込みを教えてください。
佐藤:労働安全衛生法の改正案が国会に提出されたのは、2011年12月です。政治が大きく動いていた時期でもあり成立まで進みませんでした。昨年末の国会では優先する法案だけ採決し解散してしまったため、同改正案を継続審議にする時間的な余裕がなく廃案になりました。このため厚労省は来年の通常国会で再度提出する方針です。今年度内か、もしくは来年5月までには改正案が成立し、準備期間を経て2015年4月から施行されることが見込まれます。
国会への法案提出を前提として、7月に開催された労働政策審議会安全衛生分科会で厚労省は、小規模事業所におけるメンタルヘルスケアの取り組みが遅れており、この推進が必要である、との考えを再び示しています。その上で、これまでの改正案に付け加えるべき事項の有無を検討するとして、委員の意見を聞いたのです。その結果、分科会会長はメンタルヘルス対策とストレスチェックを実施することの重要性について、各委員とも異論がないことを再確認したと述べています。