しかし、こうした特に高齢世代内の所得再分配の強化は、今後至る場面で俎上に登ることを覚悟しなければならないだろう。今までであれば、社会保険料の引き上げに対して現役世代の拒否感は弱かったものの、五公五民の国民負担率や、岸田首相も最近手取り所得を重視する発言を繰り返したことで、かえって所得税よりも社会保険料の負担が重いことが白日の下に晒され、現役世代の抵抗が強まったからだ。
求められる社会保障サービス需要の適正化
要するに、擬制家族に必要なサービスを全て社会化していく全世代型社会保障の推進は、今後あらゆる方面に課題を発見し社会化(つまり、税負担化)していくのは必至なので、介護保険のみならず、これまでは見逃されてきた高齢世代の負担増も当たり前となるだろう。全世代型社会保障の負担からは誰も逃れることはできない。
しかも、内閣府が経済財政諮問会議に示した試算によれば、2050年の1人当たり平均介護費が19年比で75%増の23万5000円に達するとの見込みだ。平均医療費も22%増の40万1000円になる。同期間で20~64歳の現役世代は19年6925万人であったものが50年には5147万人と、19年比で▼25.7%と大幅に減少する。このまま現役世代に負担増をそっくり負わせるのは不可能だ。
こうした高齢世代も現役世代も負担増が嫌ならば、社会保障給付のスリム化を進めるしかない。
社会保障給付をスリム化する有力な手段としては、先の社会保障審議会で介護保険に関して検討されている自己負担の引き上げが挙げられる。現状では、言葉が悪いのは予め謝罪しておくが、高齢者向けの社会保障給付の多くが8割引き(自己負担2割)、9割引き(自己負担1割)で供給されている。
所得の多寡にかかわらず原則3割自己負担である現役世代と比しても不公平だ。そもそも経済学の原理に照らしても必要以上に医療や介護のサービスを受容する超過需要が生じているのは明らかである。
社会保障サービスの値引き率を引き下げる(自己負担を上げる)ことで、社会保障サービスの需要の適正化を図るのが、社会保障給付を削減するはじめの一歩としては妥当だろう。