報道によれば、11月2日に策定された経済対策で、「賃金上昇が物価高に追いついていない国民の負担の緩和やデフレ脱却のための一時的な措置として減税を実施する」とした上で、「過去2年間の税収増を分かりやすく直接還元する」べく「来年6月から減税をスタートできるよう、来年度の税制改正で結論を得る」とした。減税の規模は総額で3兆円台半ばを見込んでいるとのことだ。
具体的には、所得の多寡にかかわらず、1人あたり計4万円の所得税(3万円)と住民税(1万円)の定額減税を2024年6月に実施する。配偶者や扶養親族も減税対象となる。
財源としては、21年、22年の過去2年間で所得税と住民税の税収の上振れ3.5兆円を充てるとし「税収増を納税者にわかりやすく税の形で直接還元する」という。取りすぎていた税を国民に返すのであれば、還元ではなく、還付だと思うのだが、あまり意識はされていないようだ。
それはさておき、岸田首相の税の還元策を形にするため、自民・公明両党の幹部に減税を含む家計支援の具体策を年末までに決定するよう指示したとのこと。ただし、所得税も住民税も納めていない者には、所得税減税対象にはならず減税の恩恵は届かないため、住民税非課税世帯に対しては一世帯当たり7万円を給付する。
一方で、政府の推計では、所得税や住民税が減税される『住宅ローン控除』(住宅借入金等特別控除)を受けていて、所得税を納めていないが住民税を納めている約500万人、納税額が4万円未満で減税の恩恵を受けきれない約400万人、あわせて約900万人の「隙間」の人々への具体的な救済策は今後の与党税制調査会で議論される。
住民税非課税世帯の6割強が高齢世帯という現実
実は、結論から言えば、定額減税の対象とはならず給付金の対象となる住民税非課税世帯には、高齢者世帯が多く含まれるため、住民税非課税世帯への7万円給付は、実質的には高齢世帯へのバラマキに他ならない。
厚生労働省「国民生活基礎調査(世帯票)」によれば、日本の全世帯5191万4000世帯に占める65歳以上の高齢者世帯は1506万2000世帯で全体の29.0%。さらに、このうち、高齢者世帯の住民税非課税世帯は767万世帯あり、高齢者世帯の43.3%、全ての住民税非課税世帯1218万世帯の63.0%を占める。要するに、住民税非課税世帯とは言ってもその多くが高齢世帯なのだ。
岸田首相は今回の措置を減税と称しているが、所得税減税とは本来所得税を負担した者に税を還付することなのだから、納税者本人のみならず本来所得税を負担していないその扶養家族や、非課税世帯も税の還元策の対象とするのは、「減税」とは名ばかりで、コロナで国民も政治も慣れたバラマキ給付に過ぎない。こうしたバラマキ給付は、防衛増税や子育て増税等、なにかと増税イメージのある岸田首相が選挙や内閣支持率、あるいは自民党総裁選を意識してそのイメージを払拭すべく、実質的にはバラマキ給付なのだが、あくまでも減税という形にこだわったのではなかろうか。