2024年5月19日(日)

#財政危機と闘います

2023年11月6日

いまだに財政赤字という現実

 歴史を振り返れば、1960年度から75年度まで行われてきた所得税減税では、自然増収の20%が毎年度国民に還付されてきたとされている。これは、当時の日本経済が完全雇用にあるなかで、毎年度の税の自然増収によって生じる過度な財政黒字が景気にマイナスの影響を与えるいわゆるフィスカルドラッグを防ぐためのものであった。

 しかし、現在、岸田首相が国民に還元するとしている税の自然増収は、2020年度から22年度までの2年間の所得税、住民税の増収分約3.5兆円としているが、この理屈だと金額で見て税収増がある限り、常に減税を実施しなければならなくなるだろう。

 「【解説】日本は緊縮財政なのか?政治家たちの勘違い」でも指摘した通り、日本は現在完全雇用にあるものの、高度成長期とは違い、完全雇用財政赤字にあるので、ある年度から税収が増えたとしても、そもそも「減税」を行う余地などない。つまり、高度成長期の日本財政とは違って、現在の日本では財政赤字を出している点が当時とは全く事情が異なる。

 さらに、定額減税の財源とされる税の自然増収とは言っても、過年度の「税の自然増収」に過ぎず、今年度の増収ではないので、新たに財源を調達しない限り政府債務を増やすことにつながってしまう。実際、今般の経済対策策定に伴う2023年度補正予算での一般会計追加額13.1兆円のうち、多くは赤字国債の発行となるだろう。

 今般の減税パフォーマンスの影に隠れた本質は、仮に、税の自然増収が存在するとしても、それを今の世代が使ってしまうのか、子や孫のために債務返済に使うのか、私たち国民や政治の将来世代への責任をどう考えているかという問題でしかない。そして今般の経済対策は、世代間格差をさらに拡大する。つまり、子や孫にツケを回すのだ。

 責任ある与党の政治家は、厳然として存在する世代間格差を直視したうえで、巨額な政府債務が存在し、しかも慢性的な財政赤字体質のままでの唐突な減税は、市場の信任をつなぎ止められなければ、インフレの加速や円安を招き、資本流出が起きる可能性(英国のトラス政権の前例)を常に念頭に置いておくべきではないか。そういう意味では全く財政への責任感が欠如していると言わざるを得ない。

インフレでもデフレと言い続ける理由

 岸田首相や与党の有力政治家からは、今般の定額減税及び給付金は、デフレからの完全脱却のためのツールとしているという。

 しかし、2022年度の消費者物価指数(生鮮食品を除く)、いわゆるコアCPIは3.0%の上昇と1981年度以来41年ぶりの高水準であり、日本銀行が10月31日に公表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」でも、コアCPIの前年度比上昇率の見通しは、2023年度、24年度ともに2.8%に上方修正されている。

 つまり、すでにデフレからは脱却しているので、定額減税及び給付金で経済にブーストをかける理由はない。なぜ、岸田首相も政治家もいまだに日本経済はデフレと主張するのだろうか。

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