増税主義者と思われていた岸田文雄首相が、にわかに減税を示唆して大騒ぎとなった。首相は9月25日、「経済対策の目的について「経済成長の成果である税収増などを国民に適切に還元する」と語った。
具体策は賃上げ促進や特許など所得を巡る「減税」を列挙した、とのことである(岸田首相「「税収増を国民還元」 経済対策で「減税」強調」日本経済新聞2023年9月26日)。この動きはさらに具体的になって、与野党とも、消費税、所得税、法人税の引き下げ論や低所得者への給付論が噴出している(「与野党「減税+給付」を前面」日本経済新聞2023年10月12日)。
しかし、その後、17日、自民党の萩生田光一政調会長が、経済対策の提言を岸田首相に手渡したが、所得税減税は提言になかった。これで減税はないのかと思ったら、首相は、与党の税制調査会に減税の具体化を指示する方針を固め、23日の臨時国会の所信表明演説で表明するとのことである(「岸田首相が「減税具体化」を与党税調に指示へ」読売新聞2023/10/18)。 減税するのかしないのか首相の胸中は揺れているようである。
首相発言を引用した最初の日経記事は、「自民党岸田派(宏池会)は首相になった池田勇人、大平正芳、宮沢喜一の各氏ら旧大蔵省出身者が率いてきた歴史がある。SNS上では岸田首相の増税イメージを指摘する声が出ている」と続けている。
宏池会の創始者・池田勇人は減税論者
日経記事によると、宏池会の創始者である池田首相は増税主義者であったかのようだが、実は、増税主義者どころか減税主義者だった。筆者が「岸田首相が尊敬する池田勇人内閣は何を成し遂げたのか」で書いたように、池田首相は、毎年減税をしていた。「1000億円減税 1000億円施策」が池田内閣のキャッチフレーズだった。
減税の結果、池田内閣時代の税収の対国内総生産(GDP)比はほぼ一定だった。もちろん、当時は実質GDP10%、名目GDP15%成長だったから、給料はどんどん上がっていた。しかも、所得税の累進度はきつく、最高税率は9割だった。
給料は名目で15%も上がっていたのだから、所得が増えて累進課税の税率区分が上がることによって税負担が重くなるという「ブラケットクリープ」が深刻になっていた。減税をしなければ、税収の対GDP比率はいくらでも上がってしまう。これを避けるために池田首相は毎年大規模な減税を行い、前掲の記事の図2に見るように、結果として税収の対GDP比は一定に収まっていたのである。