「これだけ多くの方が登壇して、日々の生活を話すとは、感激しました。認知症ケアでは、日本は世界の先頭を歩んでいると思います」
10月5日。東京・有楽町で開催された「認知症本人発:希望のリレーフォーラム」の会場である。マイクを前に語るのは、豪州から来日したクリスティーヌ・ブライデンさん(74歳)。
28年前にアルツハイマー病認知症と診断されて以来、認知症当事者として世界各地で講演を続けている。2004年には京都市で開催された第20回国際アルツハイマー病協会国際会議にも参加し、自身の体験を話した。
その時に、開催国の日本から当事者として演壇に立ったのは越智俊二さん一人だった。傍らの妻が、越智さんの思いを記した文章を読み上げた。日本人の認知症当時者が公の場に登場した初めての出来事だった。
「認知症になったら何もわからなくなり人生はおしまい。同居している家族はできるだけ本人を隠しておかないと」という偏見がまだ強かった。
それから19年。この日、舞台でブライデンさんの横に並んだ認知症当事者は7人。その一人ひとりが今の暮らしや活動を語った。
「発症してから絵を描き始めました」「もうじき80歳ですが、忘れることが多くても工夫しながら生活しています」「畑仕事や高齢者宅の草刈りなど仕事は沢山あります」。なかでも、会場の参加者を驚かせたのは「高知県で昨年、介護保険のデイサービスの運営を始めました」という自己紹介の声だった。4年前にアルツハイマー病の診断を受けた山口しのぶさん(46歳)だ。
山口さんは、「絶望していた当時、『初めは私も同じだった』と声を掛けてくれたのが丹野さんでした」と隣の丹野智文(49歳)さんに微笑みかける。丹野さんはこの日の進行役も引き受けている。
もう一人の進行役の藤田和子さん(62歳)は、認知症の当事者団体、一般社団法人「日本認知症本人ワーキンググループ」(JDWG)の代表理事である。丹野さんは副代表理事。
藤田さんは17年前に、丹野さんは10年前にそれぞれ若年性アルツハイマー病と診断された。「認知症の当事者同士の集まりが必要。国や自治体の取り組みに当事者の声を伝えなければ」という思いから、14年に当事者団体を立ち上げた。英国スコットランドで世界初の当事者団体、「スコットランド認知症ワーキンググループ」が発足してから12年後だった。