2024年5月18日(土)

日本の医療〝変革〟最前線

2023年10月18日

 家族からの過度な「思いやり」「先回り」が本人の生活を制約するなど共依存関係の弊害がよく指摘される。本人の基本的人権を尊重することは、本人と家族をひとくくりにしないことでもある。

当事者が求めた政策の転換

 自公案から転換できたのは、認知症当事者や家族団体の思いを十分に聞きとり受け入れたからだった。とりわけ議員立法の担い手の議員連盟に訴え続けたJDWGの「本人の本音」が法案起草者の心を強く動かした。

 JDWGは、自公案が国会に提出される前の19年1月に3項目の提案を発表した。①法の名称を認知症の人基本法に、②認知症の人を主語にして人権の明記を、③支援される一方でなく本人がよりよく暮らすための条文を――。

 同年10月にも、「予防を目的や理念から外して」などを加え、23年1月には「名称を認知症共生社会基本法に」などと「共生社会」を強く打ち出すよう提案を繰り返した。

 新法への転換は、かつての改正障害者基本法の経緯と重なる。1970年制定の心身障害者対策基本法が93年に障害者基本法となり、11年に画期的な改正が行われた。06年に国連総会で採択された障害者権利条約を日本が批准するために必要な国内法の手直しだった。

 同条約は、社会的な保護対象だった障害者を「権利の主体」と捉え直した。国は障害当事者が多数の「障がい者制度改革推進会議」を設置して審議、同法第一条を全面的に書き直した。

 「全ての国民が障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがいのない個人として尊重される理念にのっとり」と基本的人権を謳い、障害者を自己決定できる「主体」とした。当事者主権の考え方は、性的少数者(LGBTQ)の人たちの発信活動にも通底する。

 当事者の声が社会のさまざまなマイノリティの状況を変えつつある。法制度を日常生活に浸透させるかが次の課題だろう。

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