アルツハイマー病の症状の進行を遅らせる新薬「レカネマブ」が厚生労働省によって承認された。その効果や課題をめぐる新聞・テレビ報道を見ていると、やや過剰な期待感を抱かせる内容が垣間見られる。一紙だけの記事で判断を下すのではなく、さまざまな情報に目を通し、冷静に判断したい。
厚労省の専門家部会が8月21日、日本の製薬大手「エーザイ」と米国の製薬企業「バイオジェン」が開発した「レカネマブ」(商品名レケンビ)の製造販売を承認してから、この新薬をめぐる新聞やテレビ報道が増えた。翌日の新聞は一斉に「認知症新薬 承認へ 年内にも実用化」といった見出しで報じた。
医療健康記事を読むときの判断指標
この種の医療健康記事を読むときは、①「何が新しいことなのか」(新規性)、②「効果を具体的に説明しているか」(科学的根拠に基づく効果の定量的な分かりやすさ)、③「副作用はどの程度か」(副作用への言及)、④「患者の人的・経済的負担は増えるのか」(患者負担への言及)、⑤外部の専門家の客観的なコメントを載せているか(客観性の担保)、などを判断指標に読むとよい。
ただ残念ながら、新聞一紙を読むだけでは、これらの情報のすべてを得ることは難しい。どんなテーマでも、できるだけ多くの新聞を読む必要がある。
今回のレカネマブも例外ではない。新薬をめぐる一連の新聞記事を見ていると、「レカネマブは、脳の神経細胞を壊す有害なタンパク質の『アミロイドベータ』(Aβ)を取り除く初めての治療薬であり、認知症の症状の進行を遅らせる画期的な薬」という点では、どの新聞、テレビも一致して報じており、新しさを知る新規性は合格点だった。
新薬の対象となる人が、アルツハイマー病の症状が軽い人とその予備軍となる「軽度認知障害」(MCI)の人で、症状自体を治す薬ではないという点についても、どの報道も同様に伝えていた。
「27%抑制」の意味の解説なし
どの新聞、テレビ報道でも一番分かりにくかったのは、効果の程度である。
たとえば、読売新聞は「1年半にわたり、2週に1回点滴した集団で症状の悪化を27%抑制する効果が確認された」(8月22日付)、▽朝日新聞は「偽薬と比べて症状の進行を27%抑制していた」(8月22日付)、▽毎日新聞は「1年半後の症状の悪化状況を比べると、レカネマブを投与した患者は悪化を27%抑えられた」(8月22日)、▽テレビ朝日は「認知機能の低下を27%抑えた」(8月21日)、▽FNNニュースは「患者の症状を27%抑制」(8月21日)、などと伝えた。
どのニュースも「27%抑制」という点は一致しているが、その抑制が実際にどの程度かを想像することはかなり難しい。この抑制の意味に関しては、どの新聞・テレビも具体的な解説が不足していることが、医療健康記事を医師や記者などで検証する活動を続けている「メディアドクター研究会」の勉強会(9月2日)でも指摘された。