「27%」の実態
この27%は、認知症の重症度を評価するために考えられた臨床的認知症尺度(CDR-SB =Clinical Dementia Rating Sum-boxes)のスコア(点数)から導かれた。つまり、時間や場所、記憶、社会への関心度などに関する6項目について、患者の所見や家族からの情報を基に症状の程度を点数化したものだ。6項目のスコアの合計点(CDR-SBのスコア)は18点だ。
レカネマブの臨床試験は1795人(13カ国)を偽薬(プラセボ)群(897人)とレカネマブの投与群(898人)に分け、18カ月後に症状の悪化の程度を比べた。その結果、レカネマブ群の認知症スコアの変化がマイナス1.21だったのに対し、偽薬群はマイナス1.66だった。その差は0.45である。この差の0.45を1.66で割ると27%になる。
つまり、認知症のスコア(点数)の減り方がレカネマブのほうが少なく、その点数の減り方が偽薬に比べて、27%低かったというわけだ。18点のうちの0.45なので、わずかな差だといえるが、問題はこの0.45の差をどう解釈するかである。
この問題を議論した同メディアドクター研究会では「統計学的には0.45の差は有意差があったと言えても、この差は実際に患者を診ている医師でも判別できないほどの差であり、大きな意味があるとは思えない」との指摘が出た。
この「27%抑制」に関しては、多くの新聞は「認知症の進行を7カ月半遅らせることに相当する」(8月22日読売新聞)や「症状の悪化を2~3年遅らせる可能性がある」(8月22日産経新聞)などと書いているが、点数の差がわずかだという解説はなかった。
ただし、NHKの牛田正史・解説委員は「レカネマブを2週に一度、投与した人たちは、1年半後、投与していない人たちに比べて、悪化の数値を27%抑えることができた」(8月23日)と解説し、数値という言葉を使って的確に伝えていたが、残念ながら、数値が下がった意味を詳しく伝えていない。
一方、「認知機能の低下を27%抑える」というニュースを見た人は、実際に家族や医師が患者の症状を見ていて、症状がよくなるかのような印象をもったのではないか。偽薬に比べて、点数がやや改善されたという意味での臨床的な効果を今後、報道機関はもっと報じるべきだろう。
見落とされがちが投与の方法
新聞に比べてテレビでは、ナレーションの情報量が少ないせいか、まるで夢のような新薬が生まれたかのようなイメージをもった人がいたのではないか。しかし、実際には、新薬を投与する際にも高度な専門技術を要する画像診断が必要だ。しかも無視できない副作用が詳しく報じられていない媒体もあったため、過剰な期待感を抱かせるニュースがあった。
改めて説明すると、レカネマブは飲み薬ではなく、2週間に一度の通院が必要で点滴による治療だ。その点滴時間は毎回1時間程度かかる。
しかも治療の対象となる患者は、事前に脳内の画像診断や脳せき髄液検査が必要となる。この検査は患者にとってかなりの負担だ。
この点について、産経新聞は「がん診断などに使われるPET(陽電子放射断層撮影)でAβが蓄積しているかどうかを確認することが必要だが、その装置は都市部には多いのに対し、地方では少ない。新潟県内でPET装置のある施設は5つしかない」(筆者で要約)などと報じ、検査と治療が受けられる施設が偏在している課題を指摘していた。この地域差については朝日新聞も詳しく報じていた。