2024年11月22日(金)

日本の医療〝変革〟最前線

2023年10月18日

画期的な言葉が綴られた認知症基本法

 この日の催しを主宰した社会福祉法人浴風会の認知症介護研究・研修東京センターによると、「会場には50人近い認知症当事者が参加した」という。これほど多くの当事者が一堂に会するのは珍しい。19年前の実情を知るブライデンさんが「隔世の感」と感じたのも当然だろう。

 認知症ケアについて仲間として語り合い、あるいは外部に発信してきたのはそれまでは家族団体だった。認知症になった親のケアを続けてきた家族たちだ。家族団体でなく当事者自身が登場した。そのインパクトは大きい。団体の発言が国の認知症政策の土台に関わった。

 この6月に国会で成立した認知症基本法である。画期的な文言で綴られている。これからの認知症施策の文字通り基本となる重要な法律だ。その法案に大きな影響を与えたのがJDWGを核にした当事者たちの訴えだった。

 共生社会を目指すというこの法案は、その担い手として認知症の人の社会生活を真正面から位置付ける。これまでの「支援してあげる」施策からの転換といえるだろう。

 同法は53番目の基本法。理念や目的を掲げて国の基本方針を定めるのが基本法で、憲法と個別の法律の間に位置する。今後の認知症施策のベースとなる。

 4年前の19年に自民党と公明党が認知症基本法を国会に提出。だが、廃案となり、新しく超党派の議員立法が起草され国会で審議してきた。

 4年前の自公案と比べるとこの基本法の斬新性がよく分かる。政府が19年に閣議決定し、現在掲げる最新の認知症施策である「認知症施策推進大綱」を否定したに等しい内容も盛り込んだ。

 何よりも法案名が異なりユニークだ。自公案では「認知症基本法」だったが、「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」となった。共生社会の実現という長文の目的を法案名に記したのは異色だ。

 大綱では「共生と予防を車の両輪」を基本戦略としていた。そこで強調してきた予防を外した。

 予防の排除は、第一条の「目的」で明白だ。自公案にあった「認知症の予防等を推進」が消えた。第八条の「国民の責務」でも「認知症の予防に必要な注意を払う」との叙述がなくなり、「共生社会の実現に寄与」に変わった。

 予防については、JDWGが、「予防を目的にしないで欲しい」と強く訴えてきた。「予防を強調すると、認知症は予防できると過剰な期待や偏見を生んでしまう。認知症の人と家族に予防を怠ったと誤解を与えかねない。代わりに『備え』としては」と提言する。

 多くの精神科医は「認知症予防の啓発は重要」と今も声高に唱える。専門学会もある。認知症の「病気」の面を強調する考え方からだ。だが、認知症は85~89歳の高齢者の41.4%、90歳以上の64%、95歳以上の80%近くが発症する。

 誰でも認知症になる可能性がある。加齢に伴う「自然な障害」「老化現象」とする見方も出ている。


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