「試合形式みたいなことは、今回のショーを作っていくにあたっても、やろうとは思っていたのですが、今回は、試合プロ(グラム)に近い構成にするにあたって、作品の中の一部であってほしいっていうのが強くありました。6分間練習ですが、ちゃんと曲に合っていて、それ自体も一つのステージみたいなものを演出として作っていったつもりです」
いよいよ迎える決戦を前に、羽生さんはリンクサイドで屈伸をして「くまのプーさん」のティッシュカバーに手を触れた。この日の取材の最後で明かされたのだが、トロントから連れ帰ってきたものだった。
音楽が流れると、これぞ「羽生結弦の演技」というプログラムで会場を魅了した。サルコウ、トゥループと2種類の4回転ジャンプを決め、美しい放物線を描いた鮮やかなトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を華麗に跳んだ。
圧巻は、競技会では決して見ることができない「トリプルアクセル+オイラー+3回転サルコウ+オイラー+3回転サルコウ」の5連続ジャンプだ。規格外のコンビネーションでラスボスを倒した羽生さんが右手を突き上げると、大画面には「CLEAR」の文字が浮かび出た。
「戦いきってやっと倒せたっていうとこなんですよね。(5連続ジャンプは)もちろん、試合では使えないジャンプになるかもしれないですけど、ある意味では、繰り返されるというのがリプレイの自分の中でのテーマなので、オイラー+(3回転)サルコウはすごく繰り返されていくジャンプなので、テーマにも沿って良いのかなと思いました。あとは音的にもすごくハマるかなということも考えました」
クライマックスに向かい、やがて画面に表示された「RE_PLAY」の文字「RE_PRAY」へと変わった。
羽生さんはなおもアンコール曲で盛り上げる。「Let me Entertain you」。圧倒的な存在感を解き放ってきた羽生さんが一転、曲が流れる前に、やや照れた表情で観客席のファンと即興で「コールアンドレスポンス」の打ち合わせをする様子が、会場に穏やかな空気を運びこんだ。
その後は、大音響のロック会場と化したアリーナに会場のボルテージも一気に高まっていく。そして、平昌五輪のフリー曲で「王道」でもある「SEIMEI」も演じ切った。
余力を残すつもりはない。すべてに全力、極限まで力を出し尽くすのが「羽生結弦スタイル」の真骨頂だ。マイクを握ると、「人生というものをやめない限りは、明日は続いていく。そんなことを考えながら毎日を生きてほしいなと思って、このアイスストーリーを紡ぎました」と語りかけた。そして、最後はお決まりのフレーズである「ありがとうございました!」と声を張り上げた。
創出した「アイスストーリー」というジャンル
白熱の2時間半を終え、囲み取材に応じた羽生さんからは気になるキーワードが漏れた。
「アイスショー」ではなく、「アイスストーリー」というワードだ。
「これまでやってきたアイスショーとは、全然違います。これは1つのプログラムだけではなく、1つの作品の中に色々なプログラムがあります。もちろん、今までやってきたプログラムもありますが、それが物語の中に入った時に全く違う見え方があって、『こんな見え方もあったんだな』ということを1つの流れで見せることが趣旨です。自分としては全く違った心意気で、このアイスストーリーというものに挑んでいます。
自分が綴って、自分が表現したいことを、多くの方々を巻き込んで作り上げていくことに、怖くなることもありますが、皆さんが作り上げてくださったものをプレッシャーに感じながら、責任を感じながら滑らせていただく機会は大変ではありますが、アスリートとして限界に挑みながらも、いい演技ができるように、また頑張りたいなという気持ちに改めてなりました」