フィギュアスケートのアイスショー「ファンタジー・オン・アイス(FaOI)2023」は、5月26~28日の千葉・幕張公演から始まり、6月下旬までの約1カ月で宮城(6月2~4日)、新潟(同16~18日)、神戸(同23~25日)の4会場で開催され、いずれも大盛況のまま終演を迎えた。
このショーで毎年、中心的な存在を担っているのが、五輪2連覇を果たして「絶対王者」と呼ばれ、昨年7月にプロスケーターへの転向を表明した羽生結弦さんだ。
今年はプロになってから初のFaOI出演だった。プロとしてどんなプログラムで魅せるか――。報道陣にも公開された初日公演のプログラムは斬新だった。
観客を驚かせた掟破りの「進化」
ショーの大トリを飾った羽生さんの演技は、ゲストのダンス&ボーカルグループ「DA PUMP」のリーダーISSA、KIMIと豪華コラボレーション。人気曲「if…」のサウンドに合わせた舞いは、従来の枠にとらわれない幕開けだった。
照明が消えた暗闇の中でリンクへスタンバイに向かうと、羽生さんはまだ音楽がかかっていない氷上で体を旋回させるのが人影からわかった。アラビアンと呼ばれる技術で右足を振り上げると、キャメルスピンをスタートさせたのだ。そして、スポットライトが浴びた次の瞬間、すでに羽生さんがスピンをした状態から演技が始まっていた。
競技としてのフィギュアスケートは動きを止めたところからスタートする。従来のアイスショーも同様で、「静」から「動」の演目の始まりに見慣れた観客にとっては、いきなりのサプライズだった。プロの新境地に立つからこそできる、競技の枠にとらわれるものからすれば、掟破りの「進化」で会場の度肝を抜いた。
激しいダンスやキレのあるステップで軽快に舞う姿からは、決して「顔見せ」的な意味合いでなく、滑りこんで作り上げた「超一級のプログラム」であることを見せつけた。盛り上がる曲調に合わせて2本の3回転ループも華麗に着氷。そして演技のフィニッシュは、視線が追いつかないほど瞬く前に、柔軟性を駆使して縦に両足を180度開脚させて氷上に沈み込んだ。
コロナ禍から新たな日常へと時計の針が進み、4年ぶりに解禁された観客の大歓声が会場を包み、羽生さんはスタンディングオベーションでたたえられた。
オープニングでの着氷に納得がいかなかった4回転トーループをフィナーレでも挑んで着氷させ、最後はただ一人、リンクに残って、羽生さんのショーの締めくくりとしてお決まりにもなっているフレーズである「ありがとうございましたーっ!」をマイクなしで大絶叫した。この日はショーの途中で、会場の幕張イベントホール周辺で地震が発生して一時中断したこともあり、観客の帰途を気遣うアナウンスまで自らが担った。