トリノ五輪金メダルの荒川静香さんや、海外からも08年世界選手権3位のジョニー・ウィアさん(米国)、トリノ五輪銀メダルのステファン・ランビエルさん(スイス)、平昌五輪銅メダルのハビエル・フェルナンデスさん(スペイン)らビッグネームが共演した豪華なショーを牽引するにふさわしい存在感を際立たせた。
プロとして挑戦を続ける姿勢
羽生さんはプロ転向に際して、一つの矜持を持っていた。
それは、アマチュア(競技者)とプロという線引きが特殊なフィギュアスケートの従来の枠組みや概念を打ち破ることだった。
1年前の7月、東京都内のホテルでプロ転向を表明した羽生さんは野球を例に挙げてプロとアマの関係を語っていた。
「(高校野球で)甲子園に出た選手が野球をそこまで頑張ってきて、プロになったら(アマチュア選手としての)引退かといわれたら、そんなことないじゃないですか。僕はそれと同じだと思っています。フィギュアスケートって、現役がアマチュアみたいな感じで言われていて、すごく不思議だなと思っています。むしろ、(プロに転向した)ここからがスタートで、これからどうやって自分を魅せていけるか、頑張っていけるかが大事だと思っているので、そういう意味でも、新たなスタートを切ったなと思っています」
その上で「ここで『ありがとうございました』ではなく、さらに見る価値があると思ってもらえるような演技をするために、これからも努力していきたいと思っています」と向上心を強く持っていた。だからこそ、将来的な競技への復帰可能性についても完全否定した。プロスケーターとしての次なるステージを見据えていたからだ。
一般的には、競技の第一線を退き、プロに転向したスケーターの主戦場は、アイスショーになる。アイスショーは競技ではなく、魅せることへの比重が大きくなる。
このため、プロスケーターは表現面を磨くことに重点を置き、成否が不確実なジャンプを回避することでプログラム全体の作品としての完成度を高めることを優先する傾向にある。現役時代に4回転を跳んでいた男子スケーターも3回転にするなど確実性を高めていく。
しかし、羽生さんはこうした慣習に真っ向から抗った。FaOIでも4回転ジャンプを跳び、それどころか、現役最後の公式戦となった北京冬季五輪のフリー冒頭で「技」として史上初めて認定を受けた4回転アクセル(4回転半ジャンプ)の完璧な成功すらあきらめていない。
羽生さんがFaOIの中で演技に登場する直前のアナウンスでも、こんなふうに紹介されていた。
「まだ見ぬフィギュアスケートの新たな可能性を追い求め、彼の挑戦は続きます」