総合演出にもこだわり高みを追求
プロに転向した羽生さんはこの1年でいくつもの挑戦を続けてきた。
昨夏の仙台で報道陣に練習を公開した「SharePractice」は自身の公式YouTubeチャンネル「HANYU YUZURU」での動画配信をライブで行い、現地で取材した報道各社のインタビューにも多くの時間を割いた。11月の横浜での自身初の単独公演「プロローグ」、さらには今年2月の「半生」と「これから」をテーマにした東京ドーム公演、3月には自らが座長を務め、被災地への思いを込めて滑った地元・宮城でのアイスショー「羽生結弦 note stellata(ノッテ・ステラータ)」と全力で突っ走ってきた。
そして、すでに書いたように、プロに転向後のFaOIは今年が初めてになるが、羽生さんは斬新な演出に挑んだのだった。
羽生さんはプロになって以降、ショーへのこだわりを一段と強く持ち、総合演出も手がけるようになった。プロジェクションマッピングを駆使したのをはじめ、自らの肉声でのナレーションは「語り口」にまでこだわった。
2時間のアイスショーは従来、たくさんのスケーターが出演することで成立してきた。たった一人でいくつものプログラムを滑るというのは負担が大きく、プログラムとプログラムの「間」をどうつなぐかという課題もあった。
しかし、観客の視線が常にリンクに集まるように、制作段階から指揮を執り、ショーの本番では自ら「主役」としても演じる。壮大なショーで、一人で何役も担い、競技という「発表」の場がなくても、自らが創造した「世界」に呼び込むための努力を惜しまなかった。
実は厳しいアイスショーの世界での闘いに注目
日本国内のフィギュアスケート人気は、2006年トリノ五輪の前からずっと高止まりしてきた。
女子から男子へ、人気の比重は変遷してきていても、近年のカップル競技の躍進もめざましく、「観戦競技」としては依然として国内屈指の人気スポーツとなっている。こうした人気を追い風に、シーズンオフのアイスショーは乱立状態といえるほどにまで数が増えてきた。
ただ、足下では「フィギュアスケートのショーだから、観客を呼べる」とはいえない状況にもなっている現実も見逃せない。
アイスショーの会場で何人かの関係者に話を聞くと、ある関係者は「羽生さんの人気は別格です。羽生さんが出るショーと、そうでないショーではチケットの売れ行きは全然違う。それくらい影響力は大きいです」と明かす。ただ、それは決して驚く話ではない。フィギュア界随一の人気を誇る羽生さんが、自らの地位にあぐらをかくことなく、ショーのレベルやクオリティーを引き上げている。