二つ目に、このような膠着した長期の戦争は必然的にロシアへ有利に作用し、ウクライナの軍と国家に巨大なリスクをもたらすと彼は警告する。ロシアの戦力を過小評価すべきではない。
三つ目は、何故、膠着状態に陥ったかといえば、双方のテクノロジーの水準が同じ水準に達したからである。例えば、戦場でお互いの動き、手の内がモニターのスクリーン上で見て取れて、お互いに打つべき有効打を欠いている。ザルジニーは、これを双方とも「茫然自失」の状態と表現しているようである。
彼は不平を言っていない。しかし、彼は長距離ミサイル、戦車、F-16戦闘機が作戦上最も意義があった時点で供与されなかったことに言及している。その間、戦場のテクノロジーはドローンに傾斜することになった。
四つ目は、この膠着状態の罠をどうやって抜け出すかである。彼は、ウクライナが勝つためには、次の4つの分野におけるテクノロジーの革新が必要と語っている。
(1)航空戦力の強化――ドローンの強化が重要
(2)電子戦能力の強化――ドローン戦争を戦うためにも必要
(3)砲撃制圧能力の強化――GPS誘導砲弾の能力はロシアの電子戦で低下
(4)地雷除去機器――西側供与の器材でも能力不足
いずれウクライナは損耗で十分な数の兵士を欠くことになるので、これをテクノロジーで補う必要もある。
米国はどう動くか
一旦ロシアの地雷で守られた防衛線を幾つかの箇所で突破できれば、突如として急速に前進が可能になることがあるという有力な意見はあったが、そうはなりそうにない。反転攻勢が成果を挙げ、ロシアとクリミアの間の回廊を遮断して、ウクライナが強い立場で交渉に臨み得ることを西側は期待したが、望み薄のようである。それでもウクライナには戦い続ける以外の選択はないとザルジニーは言う。
ザルジニーの言うテクノロジーの革新を西側が先端兵器の提供をもって助けることが出来るのか分からない。しかし、プーチンを勝たせる訳には行かない。
今後も西側が効果的な支援を続けることが絶対的に必要であるが、米国がどう動くかが決定的に重要である。米国の支援のための財源はほぼ枯渇しているが、11月2日、新たに下院議長に就任したマイク・ジョンソンはバイデン政権の要請――ウクライナとイスラエル両国向け支援を含め1060億ドルの一括支援――を拒絶し、イスラエル向けに絞った143億ドルの支援法案を下院で成立させた。
上院はバイデン政権の要請に沿った法案を検討しており、下院案が成立する見込みはないが、本件の帰趨は予断を許さない。