2024年7月16日(火)

インドから見た世界のリアル

2023年11月27日

他人事ではないイスラエルの軍事作戦

 しかし、もし、中東情勢の激変に関してグローバルサウスをまとめる会議を開くとすると、イスラエルに対する立場について、うまく御さなければならない。これはインドにとって課題だった。

 中国の姿勢は、反イスラエル色が強く、イスラエルに反感を持つ国々の支持を得やすい。一方、インドの姿勢は、イスラエル全面支持である。グローバルサウス内では、イスラエルに批判的な国が多いから、中国の影響力が上がり、インドの影響力が下がってしまうかもしれない。

 しかし、インドのイスラエルに対する姿勢もまた、揺ぎ無いものだ。今回の軍事作戦は、インドが直面している状況からすると、他人事とは思えないからである。

 インドは、パキスタンが支援するイスラム過激派対策に直面し、テロ対策として「コールド・スタート・ドクトリン」を追求しているものとみられている。この「コールド・スタート・ドクトリン」とイスラエルの作戦には、いくつか共通点がある。

 インドの「コールド・スタート・ドクトリン」は、パキスタンが支援するイスラム過激派のテロが起きた時、パキスタンに対し、代償を支払わせる戦略である。インドの戦車部隊がパキスタン国内の重要拠点に絞って侵攻し、領土を占領する。パキスタンがイスラム過激派を支援したことに対し、領土という目に見える形で損害を与え、パキスタンが反省するように画策するものだ。

 この作戦の鍵は、国際社会が止めに入るまでに、作戦を完遂することである。国際社会は1週間もすると、国連安全保障理事会に決議をだしてくると、インドはみており、インドを支援するロシアが拒否権を行使し続けてくれたとしても、1~2週間後には、ロシアの忍耐が限界を迎え、軍事作戦の終了を求める決議がでてしまう可能性がある。そこで、「コールド・スタート・ドクトリン」では、2~3週間で作戦が終了することを狙うのである。

 今回のイスラエルの作戦は、ガザ地区を占領し、ハマスに領土的な打撃を与える可能性がある。また、イスラエルが作戦の時間をかければかけるほど、国際社会の反戦の動きが強まる。そういう点で、インドが「コールド・スタート・ドクトリン」で想定したイスラム過激派対策と、共通点があるのだ。

 だから、インドからすると、イスラエルがおかれた立場はよく理解できる。イスラエル支持は明確で、11月に行われた米印外務・防衛2+2閣僚会議においても、イスラエルへの支持が明記されたのである。

 しかし、このような、インドのイスラエル支持は、イスラエルに対して反感を強めるグローバルサウスの国々からみると、反発を招く可能性がある。反感を持つ国は、反イスラエル色が強い中国の姿勢に、より共感をもってしまうだろう。

 こういった事態を受けて、インド国内でも、モディ政権のイスラエル支持の姿勢には批判がでている。インドは自国内に2億人のイスラム教徒を抱えているし、多くの対立で明確な立場を示さない第三極であることで、利益が得られる、と考えている人も多い。イスラエル支持を明確にしたことで、グローバルサウスをまとめられないのではないか。今回のように、モディ首相が明確にイスラエル側に立っていることに対しての批判は、国内、国外、両方ででているのである。

 インドが出した結論は、グローバルサウスサミットを開き、そこで、民間人に死者が出ていることについて強く非難することであった。これはハマスとイスラエル双方に対するもので、グローバルサウスにおける意見の違いを目立たなくして、インドの議長国としての存在感のみをクローズアップすることを狙ったものといえる。


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