真実よりも敵味方が重視される時代
第三に、インドは、西側諸国に対し、インドの姿勢が反西側ではないことを示す狙いもあったものと思われる。なぜかというと、インドは今年9月まで、上海協力機構の議長国でもあるのに、反西側色が強い、上海協力機構についてあまり積極的ではなかったからだ。
7月に行われた上海協力機構のサミットは、オンライン形式となった。また、議長国が他の国に代わってから行われた10月の首相級会合に、インドはモディ首相ではなく、ジャイシャンカール外相が出席している。
実は、他の国が首相をだすのに、印パだけ、毎年、首相ではなく外相が出席するのである。あまり上海協力機構を重視しているように見えない姿勢だ。
今年9月末、インドのジャイシャンカール外相がハドソン研究所で講演し、インドは、西側ではないが反西側ではない、という話をした。ハドソン研究所は(筆者の所属する研究所でもあるが)、今年から、台湾の蔡英文総統の講演を受けて、中国が制裁をかけている研究所だ。中国の後、ロシアも制裁をかけている。
2018年、当時のペンス米副大統領が、米国の対中戦略を発表した研究所でもある。だから、そこで講演すること自体、中国に対して強いメッセージをもつ。だが、今回は、そこで講演しただけでなく、ジャイシャンカール外相がインドは西側ではないが、反西側ではないと明確に述べたのである。
今、中国による周辺国に対する攻撃的な姿勢、ロシアによるウクライナ侵略を受けて「敵か、味方か」がより重要になっている。それは単に安全保障の問題だけでなく、より広い問題に適用される時代になっている。
だから、東京電力福島第一原発の処理水の問題でも、同様だ。日本だけでなく、国際原子力機関(IAEA)も繰り返し調査した、科学的には全く問題がないものであるから、米豪の大使や大使館員が福島を訪問して海産物を食べ、欧州連合(EU)も輸入制限を撤廃しているのに対して、中国は日本の海産物の輸入を禁止し、ロシアもそれに続いたのである。
中国の原発はより危険なレベルの放射性物質を海に流しているし、ロシアは冷戦後、多数の原子力潜水艦を海に捨てていた。そういった国が、安全管理をきちんと行っている日本の処理水に対して難癖をつけるのは、真実よりも「敵か、味方か」がより重要になっていることを示している。
経済安全保障の問題も同じである。「敵」になりそうな国にサプライチェーンを依存していると問題になっているからだ。「敵か、味方か」という問いは、安全保障を超えて、より広い問題全体に適用されつつある。
そのような時代において、インドが今回示している姿勢は、表面上は、グローバルサウスの国が、米中、米露から「敵か、味方か」と問われたら、敵でも味方でもなく、第三の選択肢として、インドを選べ、というものにみえる。しかし、実際には、インドは、上海協力機構では反西側各国の加盟に反対し、グローバルサウスサミットではグローバルサウスの声を国際社会、つまり主要7カ国(G7)などの国々に届けると述べ、習氏が出席しないサミットを繰り返し開いている。インドの姿勢は、第三の選択肢を示しながらも、中国に反対し、西側によく配慮したものといえる。
つまり全体をまとめると、インドが今回グローバルサウスサミットとG20サミットを再び開いたのは、中東の激変に対して、中国に主導権をとらせないようにするために、インドの存在感を示そうという狙いがある。その姿勢は、グローバルサウスと西側諸国の橋渡し役になり、対中戦略を強化しようというものでもある。
ここから、インドがグローバルサウスをまとめようとする姿勢は、日本の対中国戦略に合致する。反西側ではないから、日米同盟にも合致する。つまり、真の意味で、日本の国益に合致するものと、いえよう。