2024年7月27日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年12月8日

 この短い事実を伝えるフィナンシャル・タイムズ紙の記事が注目される理由は、米国政府内の安全保障の専門家が、つい最近まで中国の台湾侵攻についてその時期を近い将来の具体的年限を明示して予測していたところ、この新任の統合参謀本部議長はその任について初めての訪日の折に、中国による軍事侵攻には懐疑的で、「軍事的、外交的、経済的圧力を強める手段」の可能性に言及したことにある。

 この記事にも、その背景として、米中首脳会談がサンフランシスコでのAPEC首脳会談の機会に行われることに言及している。かかる首脳会談に至る外交当局間のやり取りの常として、首脳会談の最終的確定を中国側が交渉材料にしているためか、米国が対中評価で多少の中国への配慮を効かせたトーンをセットしているのだろうなどと想像できる。ただ、中国側からの同様のトーンはまだ具体的には聞かれない。

 他方、中国の前国防相やロケット部隊幹部の失踪や自殺との関連で、その中のいずれかから機微情報が米国側に遺漏したのではないかとの推量から、その結果として内情を知られた中国軍は台湾侵攻が軍事的にし辛くなっているのかもしれないという想像を働かせる向きもある。

それでも中国の脅威は高まる

 今後暫くの間、米中首脳会談後の両軍間の対話の成否、とりわけ中国軍の動きなど目が離せない。いずれにせよ、日本は安全保障の力量を早急に手当てする必要がある。

 何故なら、上記の記事を読む限り、ブラウン大将は中国の意図について語っているが、能力の点には触れていない。脅威は意図と能力について測られると言うが、意図は一夜にして変わる可能性はあるが、能力はそうは行かない。中国が台湾を併合する能力は急激に高まっているのであり、これについて米当局者の見方に相違はあるまい。

 また上記記事で気になるのは、米国の軍のトップの安全保障に対する姿勢である。安全保障は常に最悪、想定外を想定して準備しなければならない。すなわち、たとえ「差し迫っていない」としても、万が一の緊急事態に対処できるようにしておく、強い姿勢を見せておくのが抑止力につながる。2021年のアフガン、22年のウクライナと、米国の発言と行動の弱さから教訓を学ぶべきであろう。

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