2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年12月8日

 2023年11月11日付の英フィナンシャル・タイム紙は、新任の米統合参謀本部議長が訪日の折に、中国が台湾侵略を意図しているかに確信はないと発言したことに注目し、Kathrin Hille 同紙中国圏特派員とDemetri Sevastopulo 同紙米中特派員による短い記事を報じている。なお、この記事はアジア太平洋経済協力会議(APEC)に際する米中首脳会談より前に書かれたものである。

(HUNG CHIN LIU/EvgeniyShkolenko/gettyimages)

 米統合参謀本部議長のブラウン大将は、東京で、中国の台湾武力侵略の意図に確信はないと表明し、戦争の危険性についての見通しをトーンダウンした。 ブラウン大将は、中国が台湾に軍を送り込む沿岸上陸の難しさを指摘し、米国とその同盟国は、台湾への「軍事的、外交的、経済的」圧力を強めようとする習近平の他の手段に注意を払う必要があると述べた。この発言は、バイデン大統領と習主席が、翌週サンフランシスコで首脳会談を行う前にされた。

 ブラウン大将の発言は、バイデン政権成立の時期に、台湾をめぐる戦いの可能性について安全保障当局者が発した警告とは対照的である。2021年、当時インド太平洋軍司令官だったデイビッドソン提督は、中国は27年までに台湾に対して軍事行動を起こす可能性があると述べた。

 ヘインズ国家情報庁長官は昨年、台湾は30年までに中国からの「深刻な」脅威に直面するだろうと述べた。ミニハン空軍大将は1月、米国と中国はおそらく25年には戦争に突入するだろうと述べた。21年にデイビッドソンの後任となったアキリーノ提督は、中国による侵略の脅威は「多くの人が考えるよりも近づいている」と述べた。

 ミニハン大将の発言の後、国防総省は同省幹部に、具体的時期について公に発言するのをやめるよう指示した。バイデン政権の高官らも今年に入り、中国の台湾侵略が差し迫っているとは考えていないと強調し始めた。しかし中国は、台湾を自国領土の一部であると主張し、台湾が統一に抵抗したり、他国が介入したりする場合には攻撃すると威嚇している。 

 過去数年にわたり、中国軍は台湾周辺での演習を増加し、軍事的威嚇と共に、高度な作戦に必要な技量を磨く演習を組み合わせて実施している。中国は、一方で、台湾との緊張を平和的に解決することを望んでいると言い、他方で、台湾の事実上の独立を棄損するために、貿易障壁や偽情報キャンペーンなど、さまざまな戦術を駆使している。

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 ブラウン新米国統合参謀本部議長は、11月10日から来日し、首相、外相、防衛相などと会談した。その折、米中間の軍の意思疎通の重要性に言及するとともに、中国の台湾侵攻の可能性について、従来の米国の軍や安全保障組織の幹部の発言をトーンダウンする発言をして注目された。


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