2024年11月22日(金)

バイデンのアメリカ

2023年12月19日

 第二に、前政権下では、政府、軍、議会内において、トランプ大統領の暴走を食い止める良識派が存在したが、「第二次トランプ政権」ではこうした〝異分子〟が一掃される可能性が高まっている。

 例えば、トランプ氏は大統領在任中の20年秋、黒人差別に抗議するデモ隊がホワイトハウス前広場に詰めかけた際、マーク・ミラー統合参謀本部議長(当時)に対し、軍隊出動による鎮圧を検討させたが、同議長に「国内での軍隊使用は憲法違反」として断られたいきさつがある。

 それを根に持ったトランプ氏は最近、ネット上の論評で、すでに退役しているミラー大将をやり玉に上げ、「来年、自分がホワイトハウスに帰り咲いたら、ミラーを反逆罪で血祭にあげる」と脅迫するなど、独裁者的発言をエスカレートさせる一方だ。

 とくにトランプ氏は、再選を果たした場合、ホワイトハウスとは一歩距離を置く司法省、国防総省、統合参謀本部など重要組織の首脳陣を同氏に絶対忠誠を誓う人物のみで固めると繰り返し言明。すでに「トランプ再選本部」の参謀たちには、この方針に沿って「Trump II」を支える人選を徹底させるよう指示している。

 このため、次期トランプ政権が誕生した場合、軍幹部も含め政権内で、行き過ぎた大統領命令や方針に待ったをかけるチェック機能は有名無実となりかねない。

議会は暴走を止められるか

 トランプ氏はこれまでの発言を通じ、メキシコ内の麻薬カルテル摘発や、米国内の反政府デモ鎮圧を目的とした米軍出動の意向を表明してきた。しかし、実際に大統領命令が下された場合、米軍部もこれに従わざるを得なくなる事態も考えられる。

 大統領の強権発動が懸念される他の分野としては、①米国内不法滞在者の一斉検挙・強制送還、収容所収監、②これまで移民が出産した子供に自動的に与えられてきた市民権のはく奪、③米南部国境地帯における不法入国者阻止のための米軍出動を可能とする「国内反乱法(Insurrection Act)」の発動、④ホワイトハウスの意に反する司法省による独立捜査権の否定、⑤各州自治体、議会選挙への露骨な政治介入など、多岐にわたっている。

 米国政治ではこれまで、こうした「大統領」の暴走抑制を念頭に置いた「三権分立」制度が、曲がりなりにも機能してきた。

 しかし今日、「三権分立」の一端を担う「司法」に関しては、最も独立性が高いはずの最高裁がすでに、トランプ大統領在任中に任命された判事3人を含む保守派多数で固められており、「Trump II」体制下では世論動向に押され、強権発動に際しても前政権当時以上に、〝トランプ色〟の濃い判断や裁定を下す可能性も少なくない。

 そこで「大統領」のブレーキ役として最後に残るのが、行政監視機能を持つ「議会」の存在であり、今後の動向、動静がカギとなる。


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