リベラル派として知られていたハーバード法科大学院出身のエリート弁護士はなぜ、2020年大統領選挙でトランプ氏に肩入れし、投票結果転覆を画策したのか――。そして先月、同事件を捜査中のジョージア州検察当局との司法取引で一転して有罪を認めたニュースは、米司法界にまで大きな波紋を広げている。
かつてはリベラル派を支持
ジョージア州検察局は去る10月20日、トランプ前大統領らが選挙結果を覆すために共謀したとされる事件で、起訴対象者の一人、ケネス・チェスブロ弁護士(62歳)が有罪を認め、今後の裁判でトランプ氏らにとって不利な証言をすることに同意したと発表した。
トランプ氏の個人弁護士だったルドルフ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長とともに同事件画策で中心的役割を果たしたとされる人物だけに、来春にも公判が待ち受けるトランプ氏にとって大きな打撃になることは間違いない。
しかし同時に、米マスコミが大きな関心を寄せているのが、チェスブロ氏の謎めいた同事件とのかかわりと、結果的に公判前に有罪を認め、それまでの輝かしい弁護士としての一生を棒にふることになったあわれな末路だ。
チェスブロ氏は、1961年、民主党色の濃いウィスコンシン州都マディソン近郊で、音楽教師の父、言語セラピストの母を持つ家庭で生まれ育った。
中西部の名門ノースウェスタン大学法学部卒後、ハーバード法科大学院に直ちに進み、法曹界の重鎮で師と仰ぐローレンス・トライブ教授の直接指導の下で1986年、法学博士号を取得した。同年組の〝トライブ門下生〟で今日、米国社会で華々しい活躍を見せている著名人には、エレナ・ケーガン連邦最高裁判事、弁護士でCNNテレビ法律担当チーフキャスターとして人気を集めるジェフリー・トゥービン氏らがいる。
ハーバード時代に弁護士資格を取得したチェスブロ氏はその後、ワシントンに移り、ニクソン政権下の「ペンタゴン機密漏洩事件」を担当したリベラル派のゲルハート・ゲセル連邦判事の司法スタッフとして研鑽を積み、1987年にはマサチューセッツ州ケンブリッジで独立事務所を構えた。
この間の主な仕事として、2000年大統領選をめぐる「ブッシュvs ゴア」訴訟事件で民主党候補だったゴア副大統領(当時)の主任弁護士を務めたかつての恩師トライブ氏との精力的法廷活動がある。トライブ氏自身も当時を振り返り、「彼は非常に聡明で品位もあった」と語っている。