法曹界、トランプ派からも追いやられる結果
ではなぜ、チェスブロ氏は、それまでの思想的にも穏健で安定感のある優秀な弁護士としてのキャリアを台無しにしてまで、今回のような破天荒な行動を起こすに至ったのか。
その真相に迫る確かな手掛かりは今なお、明らかになっていない。しかし、14年頃に、副業で仮想通貨ビットコイン取引にも手を出し、1度に数百万ドルもの富を築いたりしたことが、思想的転向のきっかけになったとの指摘もある。
実際に、この頃から生活スタイルも派手になり、ニューヨークに高級マンションやプエルトリコに別荘を構え始めたことが、弁護士界でもがぜん話題となった。
それ以来、共和党保守反動派の活動支援に乗り出し始め、勝利をつかむために手段を択ばず法を無視してでも挑戦する〝ゲイムズマンシップ〟(gamesmanship)としての頂点を極めたのが、20年大統領選での投票結果転覆という荒唐無稽な行動だった。
しかし、結果的にチェスブロ氏がそのために払った代償は、あまりにも高いものとなった。
まず、ハーバード時代に師として仰いだトライブ教授が同事件発覚後、「彼は私がかつて執筆した大統領投票制度に関する論考を勝手に曲解して超法規的な選挙結果転覆論をトランプ陣営に蔓延させた」として、教え子だったチェスブロ氏に「怒りと失望」を表明すると同時に、法曹界の他の有力弁護士らに呼び掛け、「ニューヨーク弁護士会」から同氏の弁護士資格はく奪を求める運動を始めた。
この点に関連し、チェスブロ氏は、同様の大統領選挙転覆容疑で捜査中の司法省特別検察官による「捜査対象者」にもされていることから、首都ワシントンでも弁護士資格はく奪処分にされる可能性が大きい。
ただでさえ、社会的信用を大きく失墜させたのに加え、法曹界の〝花形舞台〟であるニューヨーク、首都ワシントンにおいて、弁護士資格を失えば、司法界のプロとしての一生を台無しにしてしまうことにもなりかねない。
他方、政財界に依然大きな影響力を保持するトランプ支持派からも、「司法取引でトランプ氏を裏切った」として見放された形になっており、今後、立つ瀬もなくなっている。
さらに個人生活面でも、チェスブロ氏は、民主党支持者から共和党保守反動の活動家へと思想転向した16年とちょうど機を同じくするかのように、家庭不和を理由に愛妻のエミリー・スティーブンス夫人との離婚にまで追い込まれた。妻が思想転向した夫に三下り半を突き付けたとの見方もある。
その後は、20年大統領選結果転覆工作がとん挫してからは、ニューヨークを離れ、プエルトリコの別荘でひっそり単身生活を送って来た。
ただ、ジョージア州における来春のトランプ氏公判、さらには、それに続く司法省特別検察官による捜査の展開次第では、首都ワシントンへの召喚、出廷を余儀なくされるとみられるだけに、米メディアはなお、チェスブロ氏の今後の言動に大きな関心を寄せている。