「桜を見る会」で安倍元首相を追い詰める
政治資金規正法が威力を発揮した最近の例は、1年前に議員辞職した自民党の薗浦健太郎衆院議員のケースだ。氏は秘書らと共謀、数回にわたる政治資金パーティーの収入など4000万円以上を収支報告書に記載せず、そのカネを銀座のクラブでの遊興費などにあてていたという。
22年12月、規正法の上限罰金100万円と公民権停止3年の略式命令を受けた。薗浦氏の選挙区、千葉5区では、すでに別な自民党候補が23年4月の補選で当選している。
安倍晋三内閣時代の「桜を見る会」の前夜祭問題では、安倍首相(当時)の公設第1秘書が罰金100万円の略式命令を受け、安倍首相自身は不起訴処分となった。
2019年の桜を見る会(内閣総理大臣主催)の前日、安倍後援会の関係者が出席して都内のホテルで「前夜祭」が開かれ、後援会が費用の一部を負担したにもかかわらず、収支報告書にはその旨の記載がなかったため、政治資金規正法違反の疑いが強まった。
安倍氏は国会で「事務所職員が受付で会費を徴収し、ホテルにまとめて払った。ホテル名義の領収書を渡した。ホテルと参加者の契約だ」などと苦しい答弁。正しい処理であったと釈明したが、実際の費用と会費総額との差額を安倍後援会が補填していたことが判明した。
安倍氏は不起訴となり、申し立てを受けた検察審査会は「不起訴は相当」と議決、不起訴が決まった。罰金であっても有罪だったならば、安倍氏は職にとどまることはできなかったろうが、すんでのところで免れた。
小沢一郎氏を強制起訴、現職議員は判決確定前に辞職
民主党代表だった小沢一郎氏の政治資金管理団体「陸山会」の不正事件(09年)も政治資金規正法違反だった。
陸山会が都内に土地を取得した原資など20億円超える資金について虚偽、不記載をしていた。原資にゼネコンからのヤミ献金が含まれていたことを隠蔽するためだった。
現職の衆院議員だった小沢氏の元秘書ら3人が起訴され、いずれも猶予付きの禁固刑判決を受けた。議員は判決確定前に辞職した。小沢氏は検察審査会の議決によって強制起訴されたが、無罪判決を勝ち取った。
この事件は虚偽報告、不記載の額が20億円超という巨額にのぼったが、衆院議員を辞職に追い込むなど、東京地検の捜査は大きな成果をあげた。一方で、強制起訴された小沢氏が無罪判決を受けたことによって、検察審査会のあり方が論議を呼ぶという副産物も生じた。
規制強化の契機は「リクルート事件」
政治資金規正法が強化されるきっかけとなったのが、今回のパーティー疑惑と比較される「リクルート事件」だ。政治資金規正法違反ではなく、より重大な贈収賄だった。
就職情報会社であるリクルートが、事業拡大に便宜を図ってもらうなどの目的で、関連会社の未公開株を現職閣僚を含む政治家、大企業社長、中央省庁の次官経験者ら政財界、官界の有力者百数十人に譲渡した。
上場すれば値上がり確実な未公開株は賄賂に当たるとして、東京地検特捜部は、政治家ら多数を逮捕、起訴した。上場直後に売却、1億円近い利益を上げた人がいたとも伝えられる。