2024年11月21日(木)

教養としての中東情勢

2024年1月5日

沈黙のサウジ

 こうした緊迫する情勢の中、事態の推移を見守っているのがアラブの大国サウジアラビアだ。フーシ派がハマス支援として攻撃を繰り返している紅海はスエズ運河を通じて世界の貿易量の12%が通過する海上輸送の大動脈だ。

 同派は日本企業が運営する船舶など、10月以来20回以上も攻撃を続けたため、約200隻がルートの変更を余儀なくされた。紅海の一部が領海であるサウジにとっても欧州に石油を輸出する重要なルートだ。

 米国は12月、フーシ派の攻撃から守るため多国籍部隊を創設したが、サウジは本来ならこの部隊に参加してもおかしくない。だが、サウジは動こうとしていない。同国を牛耳るムハンマド皇太子にとって最優先事項は「ビジョン2030」など自ら主導する経済発展で、ガザ戦争から距離を置きたいというのが本音だろう。

 その目的達成に向け、皇太子は14年に開始したフーシ派との戦争の終結を決断、和平交渉を続けてきた。3月に同派の後ろ盾であるイランと和解したのもそのためだ。だからフーシ派の船舶攻撃も批判せず、和平交渉に影響を与えないよう「賢く振る舞っている」(ベイルート筋)というのが実情だ。

 ガザ戦争前まで、サウジがイスラエルとの国交樹立を真剣に検討していたのは事実だろう。これに危機感を深めたことがハマスのイスラエル奇襲攻撃の動機の1つだった。

 だが、中東全域に戦線が拡大するような事態になった時、サウジにとって「対岸の火事」というわけにはいかない。降り注ぐ火の粉をどう避けるのか。ガザ戦争は各国の思惑を交錯させながら、シナリオなき新年に入った。

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