2024年5月14日(火)

教養としての中東情勢

2024年1月5日

 これに対しハマスのガザ代表のシンワル氏はこのほど、軍事衝突後初めてメッセージを出し「絶対に降伏しない」と徹底抗戦を呼び掛けた。ガザと接するエジプトがガザ戦争の解決に向けた「3段階提案」を発表したが、イスラエル、ハマスとも歩み寄りは見せず、長期化は避けられない情勢だ。

イランとヒズボラの報復が焦点

 だが、ここにきて戦争がガザを超えて中東全域に拡大しかねない事態となった。イスラエルは確認を避けているが、イラン側の発表などによると、シリア駐在の革命防衛隊のムサビ将軍が23年12月25日、イスラエル軍のミサイル攻撃を受けて死亡した。ダマスカス郊外の住居にいるところを狙われたという。

 将軍はシリア駐留軍の事実上のトップ。30年間シリアに滞在し、イランが支援するレバノンのシーア派組織ヒズボラへのミサイル供与など軍事援助を監督する立場にあった。シリア国防省にも自分のオフィスを持ち、20年に米軍の無人機攻撃で暗殺されたイランの英雄ソレイマニ将軍と親しい関係にあった。

 イランのライシ大統領は声明で「イスラエルは代償を払うことになる」と報復を警告した。ベイルート筋によると、イランの最高指導者ハメネイ師がこれまでに革命防衛隊や軍に報復することを承認した。ソレイマニ将軍が暗殺された際にも同師が報復を許可し、その後イラクの米軍基地がイランの弾道ミサイル攻撃を受けて米兵約100人が負傷した。

 さらにイスラエルは公式には認めていないが、レバノンの首都ベイルートで1月2日、ハマスの最高幹部の1人である政治局副代表のサレハ・アルーリらを無人機(ドローン)で攻撃、殺害した。アル―リはハマス随一の軍事戦略家で、ヒズボラとの連絡係という重要な役割を担っていた。ヒズボラの指導者ナスララ師は報復を示唆、「戦争を恐れない」と表明した。

 イスラエルがなぜあえて戦線拡大につながるような暗殺に踏み切ったのかは明らかではないが、イスラエルは現在、ヒズボラやイエメンの親イラン反政府組織フーシ派、イラク、シリアの民兵軍団らイランの「配下」とされるグループからの敵対行動にさらされており、イランがこれ以上介入しないよう警告したものとみられている。しかし、逆に戦線が拡大する恐れは十分にあり、イスラエルにとっては大きな賭けだ。

 この他、イラン南東部ケルマンで3日、95人が死亡する爆弾事件があった。現場は米軍によって暗殺されたソレイマニ将軍の墓地付近。爆発が起きた時は同将軍の追悼式が行われ、多くの人が参列していた。事件はこれを狙ったテロとみられている。イスラエルの関与は不明だ。

 ヒズボラは最近、イスラエル北部へのミサイル攻撃を強め、新年に入ってからもイスラエルとの交戦が激化。フーシ派も紅海での船舶攻撃やイスラエルへの無人機攻撃を加速しており、米紙によると、米軍はフーシ派のミサイル基地などを攻撃する計画をすでに策定した。

 イランもフーシ派支援で紅海に艦船を派遣したと伝えられている。こうした一連の不穏な動きに中東情勢は緊迫の度合いを深めている。


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