それでも立法委員で〝負けた〟理由
このように〝外〟からの視点で見ていくと、蔡英文政権の実績は確かなものであり、副総統として現政権を支えてきた頼候補の勝利を当然に思える……のだが、台湾内部の評価はまた異なる。
13日夜、台北市・民進党本部前では支持者を集めたイベントが開催された。頼候補の勝利が確定し、支持者は喝采をあげていたが、登壇した民進党幹部には苦渋の表情が見られた。
頼候補の得票数は558万6000票、4年前の蔡英文総統の得票から約260万票も減少している。そしてなにより、総統選と同時に開催された立法委員(議会)選挙では国民党に次ぐ第2位に転落したためだ。
台湾の政治制度は半大統領制に分類される。直接選挙で選ばれる総統(大統領)がいる一方で、行政トップである行政院長(首相)は立法委員が選ぶ議院内閣制の要素を合わせ持つ。米国の大統領令のような、議会が空転した際に総統が強権を発動する〝切り札〟はない。
失点をあげつらってやろうと手ぐすねを引いている野党と果たして合意できるのか。選挙戦では人格攻撃やありもしない疑惑を針小棒大にとりあげる、仁義なき戦いがくり広げられていた。
勝つためならなんでもやります的戦いをくり広げていた諸政党が対話し、妥協するとはあまり想像できない。となると、民進党幹部らが延々空転する未来の議会を予測して渋い顔になるのもいたしかたがない。
それにしても、うまくやっていたように見えた民進党が、なぜここまで評価を落としたのか。
「評価を落としたというよりも、ボーナスがなくなったと見るほうが正しいでしょう」と、台湾人投資家のA氏は言う。
4年前の総統選では、香港デモの影響が大きかった。19年から翌年にかけて断続的に繰り返されたデモに、中国政府は強硬姿勢で対応した。デモ隊に向けて催涙弾を打ち込む、強烈な絵面が台湾市民の危機意識を高め、民進党に票を集める契機となった。
また、8年前の総統選では、中国本土との急進的な経済関係強化に反対する社会運動「ひまわり学生運動」から2年で、その余波がまだ強く残っていた。中国との関係強化を主導してきた国民党への反発が強く、民進党を押し上げることにつながった。
「台湾の人々にとって中国との関係だけが課題ではありません。むしろ、経済や不動産高騰、少子高齢化対策、汚職などのほうが興味の中心です。こうなったのは昨日今日の話ではありません。少なくとも前回の選挙の時点でも日常の問題のほうがビッグイシューだったはずですが、香港問題という〝事件〟がすべてを変えました」(A氏)
「どこの政党も現状維持の方針は一緒」
今回の総統選ではもう香港問題が提起されることはなかった。すでに忘却の彼方にある。22年8月にはペロシ米下院議長(当時)の台湾訪問に反発し、中国人民解放軍が台湾近隣で大規模な軍事演習を実施した。そして、昨年8月にも頼候補の訪米への反発として軍事演習が行われた。
〝外〟から見ると、中国の脅威を感じる事件はなお頻発しているように見えるが、「あの程度だと、もう慣れてしまってたいした反応はないですね(笑)」とA氏。