2024年12月3日(火)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2024年1月12日

 「習近平総書記は生産力お化けなのですよ」

 先日、ある研究会に参加した時、中国の産業政策を専門とする研究者が話した言葉だ。言い得て妙だろう。

(新華社/アフロ)

 習近平総書記の人となりはいまだ謎に包まれているが、過去10年間の政権運営を見ると、生産力を高める制度改革やイノベーションが大好きな一方で、足元の景気対策にはあまり頓着していない……という人物像が透けて見える。

新年あいさつで並ぶ科学技術の成功

 12月31日に発表された、習近平総書記の新年のあいさつはまさに「生産力お化け」の面目躍如といった内容だった。

 「この一年、われわれは堅実に歩み続けた。コロナ対策は安定的ステージに転換し、経済は上向き、高品質の発展は着実に推進している。現代的産業体系はより健全なものとなり、ハイエンド化、スマート化、グリーン化による新型主力産業は急成長している。

 (……)この一年、われわれは力強く歩き続けた。長い努力の末に中国のイノベーションの動力、発展の活力は勢いづいている。C919大型旅客機の商用飛行の実現、国産大型フェリーは試験航海を終了、有人宇宙船・神舟シリーズによる(宇宙ステーションのクルー)交代は続いている、深海潜水艇・奮闘者は極限深度の潜行に成功、国産カジュアルブランドの人気は高まり、国産新型スマートフォンは売り切れ続出だ。新エネルギー車(電気自動車、ハイブリッド車、燃料電池車を合わせた、中国独自のカテゴリ)、リチウム電池、太陽光パネルは、中国製造に新たな形式を付け加えた。中国は自強やすまずの精神で奮闘を続け、あらゆる場所で日進月歩の創造を成し遂げている」

 記念日のスピーチで科学技術分野における成功を誇るのは習近平総書記以前からの伝統だが、従来は大型国家プロジェクトの成功を取りあげてきた。今ではカバーする範囲が広がっている。

 今回の新年のあいさつでは、華為技術(ファーウェイ)による中国国産半導体搭載のスマートフォン、電気自動車(EV)やバッテリー、太陽光パネル、さらには「国潮」と呼ばれる、アパレルや化粧品を中心とした中国ブランド・メーカーの成功まで、細かく盛り込んでいる。

 実際、中国の技術レベル、高付加価値化の勢いはすさまじい。2023年、話題になった言葉が「新三様」。EV、リチウム電池、太陽光パネルを指す言葉だが、23年第1~第3四半期の輸出額は前年同期比41.7%増の7990億元(約1兆6000億円)に達した。アパレル、家具、家電という従来の代表的輸出商品(老三様)に代わる目玉商品となっている。気候温暖化対策に伴う環境対策ビジネスは巨大マーケットになることは間違いないが、中国はこの新たな市場に確固たる地位を築いている。

 「新三様」に見られるようにイノベーションが中国の新たな成長エンジンとなりつつあることは間違いない。中国からすれば好材料であることも事実だ。


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