2024年11月26日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年1月31日

 昨年3月の年金改革法案では、ボルヌ首相は、右派の共和党の支持を得ることに苦労し、憲法上の大統領特権に訴えざるを得なくなり国民の強い反発を招き、その後もその特権に頼った。また、7月の警察官によるモロッコ人少年射殺事件で移民コミュニティの怒りが各地で暴動となって吹き荒れたことも記憶に新しい。

 その後の政権にとっての最重要課題は移民法の改正であり、マクロンとしては、秩序ある移民政策と適切な移民への支援によるバランスを取った改正を意図したが、反移民強硬派の共和党右派の賛成を得られず難航した。最終的には、外国人について一定の罪を犯した二重国籍者の仏国籍剥奪、社会給付要件の厳格化、仏国内で生まれた子どもの国籍取得要件の厳格化等の修正を施して先月19日改正法案は成立した。

 しかし、下院では与党連合の議員27人が反対し、22人が棄権し、他方、宿敵ルペンの極右「国民連合」が予想外の賛成に回って可決されたもので、保健相が辞任し一部与党議員が離党を示唆するなど、マクロン政権の基盤が揺らぐ事態となった。

 移民問題が焦点となる欧州政治において、中道派が移民対策強化をせざるを得ず、結局極右派の主張に歩み寄ってしまうことはオランダ等でも見られた現象である。ルペンは、これを「国民連合」のイデオロギー的勝利と主張し、世論調査では、6月の欧州議会選挙で極右派の圧勝が予想されている。

 他方、この記事指摘の通り、アタルの抜擢は、ピンチをチャンスに変えようというマクロンらしい大胆な選択であるともいえる。教育相として学校におけるイスラム風の衣服の着用を禁じたことが共和党右派から評価された実績もある。

アタルが直面する2つの課題

 問題は、アタルが如何に有能で国民に人気があるとしても、同人にはボルヌのようなベテラン政治家としての野党との間の調整の経験や人脈があるわけではなく、ボルヌが直面した少数政権としての困難な状況を引き継ぐわけである。また、その後、発表された改造内閣では、次期大統領候補とも言われるル・メール財務相やダルマナン内相等の重鎮の多くは留任しており、どこまでアタルが独自の指導力を発揮できるのかも疑問とされる。

 アタルには、当面2つの課題をこなす必要があろう。まず、新内閣の発足に際して今後の課題である経済の活性化と社会的サービスの拡充についてマクロンが提示する具体的な改革アジェンダを実行する指揮官の役割が務まることを示さねばならない。その重要なカギは、与党連合内の再結束と共和党の取り込みである。

 2つ目は、6月に行われる欧州議会選挙のキャンペーンの先頭に立つことであろう。特に、「国民連合」の党首である28歳のバルデラとの論戦は国民の注目を浴びることとなる。アタルにとってはその弁論能力と国民の人気を背景に中道派の劣勢を挽回することができれば、内閣内での重みも増し、求心力を得ることもできるかもしれない。

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