合計特殊出生率1.8(2022年)と、日本の目標値を達成するフランス。出生率向上に寄与した同国の政策はいかなる理念に貫かれ、実践されているのだろうか。家族政策の財政と運用を担う全国家族手当金庫(CNAF)国際部長のオリヴィエ・コルボベッス氏(以下、OC)に聞いた。
髙崎(以下、─) フランスの家族政策は、少子高齢化にあえぐ日本から注目されている。
OC フランスの合計特殊出生率は、決して人口維持がかなう数値ではない。だが、ヨーロッパの中では最も高く、スウェーデンがわが国のあとに続く。これらの国に共通しているのは「女性の就業率も高い」ということ。フランスの家族政策は女性の就業を重視しつつ、両立する形での出生奨励を目指してきた。
実際に、フランスでは1975年以降に女性の就業率が大幅に上昇し、25歳から55歳の年齢帯で最も女性就業率の高い国の一つとなった。40歳時点の就業率では、45年生まれが69%、75年生まれが86%と、時代とともに上昇している。 「フランスでは出産後も、大多数の女性が仕事を続けている」という実態を示す数値だ。
もう一つ、わが国の家族政策を動かした要素に、家族構成の変化がある。70年代以降、婚姻外の男女から生まれる子どもは継続的に増加し、2022年は新生児72万3000人のうち64%が法律婚をしていないカップルを親に持つ。一人親世帯も増え、1990年の12%から2020年には25%に上昇した。子どものいる世帯の9%は別離親が再度世帯を築く「再構築家庭」だ。13年からは同性カップルの養子縁組が可能となり、家族像がいわゆる伝統的な「結婚している父と母、その子ども」の形だけではなく、多様化した。
──その変化は、具体的な政策や制度にどのように表れているのか。
OC 60年代までの家族政策は、「子どもを持つことによる経済的な負担を補うこと」を目的に掲げ、女性を家庭内にとどめておく「現金給付」が主流だった。70年代以降に女性の就業が一般化すると、そこに保育支援が加わる。同じ頃に家族像の変化が顕著になり始め、76年に「一人親手当」がつくられた。
90~2000年代には、「家庭生活と職業生活の調和、それに付随する男女平等」が国策に加わり、保育と育児支援に関する現物・現金給付が拡充された。背景には1980年代後半から顕著になった出生率の低下がある。当時の女性は、仕事か家庭のどちらかを選ばねばならない状況だった。そこで仕事を選び、子どもを産まなくなった。
だが本来、仕事と家庭はどちらかを選ぶべきものではない。国は国民に二者択一させる状況を放置せず、「両立」を支援せねばならない。それには家庭に給付金を支払うだけでなく、保育施設に運営資金を提供する必要があった。保育枠の欠如によって、特に母親の就業が阻害されるので、保育問題は雇用問題にも直結する。
今のフランスでは、人々は性別を問わず、仕事と家庭の両立を願っている。2021年には、子どもの誕生直後の男性育休を2週間から4週間に延長する改革が実行された。