2023年7月の軍事クーデターにより、ニジェールで反仏路線の軍事政権が発足したことを受け、フランスのマクロン大統領が9月末、ニジェールからの駐留部隊の引き上げを発表した。現在、ニジェールの隣国リビアおよびマリでは、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」が展開し、同社のニジェール進出が噂されている。また、イスラーム過激派が攻撃を活発化させており、フランスの軍事的関与の低下が西アフリカ情勢の更なる不安定化につながる恐れがある。
フランスの西アフリカへの軍事的関与
フランスの対アフリカ政策は、旧宗主国として、仏語圏アフリカ諸国との政治・経済・軍事といったあらゆる面での繋がりを維持することを軸に展開した。こうした中、フランスが西アフリカへの軍事的関与を強める契機となったのが、13年のマリへの軍事介入である。
フランスがマリに介入した背景には、マリ情勢の悪化があった。11年の民主化運動「アラブの春」の影響により、リビアで内戦が勃発したのを受け、仏英がカダフィ政権に対する北大西洋条約機構(NATO)の軍事介入を主導した。
しかし、カダフィ政権の崩壊は周辺諸国の不安定化をもたらした。リビアから流出した大量の武器が周辺地域の武装化を進めるとともに、同政権の傭兵であったトゥアレグ人率いる「アザワド解放国民運動(MNLA)」が12年1月にマリ北部で独立を掲げた武装闘争に着手した。その際、同じくマリ軍と対峙していた地元の過激派組織と、アルジェリア拠点の「マグリブ・アルカイダ(AQIM)」は、MNLAと共闘関係となり、マリでの活動を活発化させた。
だが、過激派はその後、世俗的な組織MNLAを次第に排除し、マリ全土でのイスラーム統治の実現に向け、マリ北部から中部へと支配領域の拡大を試みた。こうした過激派の勢力拡大を受け、フランスは13年1月にマリへの派兵を決定し、約4000人の兵士から成る軍事作戦「セルヴァル」に着手した。
フランスのマリ派兵は、従来の勢力圏維持に向けた親仏政権を保護する目的よりも、テロという国際的な脅威に対抗するためであったとされる。フランスはマリでのイスラーム体制の樹立を阻止し、過激派によるフランス本土への攻撃を防止するためであると、自国の安全保障の観点も強調した。
またフランスが直接介入に固執した背景には、90年代のアルジェリア内戦期に過激派の攻撃がフランス本土にも及んだ教訓もあったと考えられる。フランスは当時もアルジェリアでのイスラーム体制の樹立を懸念し、アルジェリア政府・軍を全面支援した。
これを受け、過激派組織「武装イスラーム集団(GIA)」はフランス本土を攻撃することで、フランスの世論がフランス政府によるアルジェリア支援中止に傾くよう期待した。そこで、94年にアルジェ発パリ行きのエールフランス航空機をハイジャックしたり、翌年にはパリでの爆破攻撃を実行したりするなど、フランスへの攻勢を強めた経緯がある。