直面する露ワグネルの関与
フランスに代わり、マリ軍事政権が頼ったのは、ワグネルである。同社は、マリに21年12月末に進出し、マリ軍に軍事訓練を提供している他、過激派掃討作戦にも直接関与している。
さらに、フランス軍事学校戦略研究所(IRSEM)が22年9月に発行した報告書によると、ワグネルはプロパガンダ活動を通じて、マリ国民の反仏感情を煽っている。反仏感情の高まりは、マリ以外の仏語圏アフリカ諸国でも見られ始め、反仏デモの活発化や、自国政府にフランス追従政策の転換を求める動きが広がっている。
こうした状況下、22年11月、マクロン大統領はバルカン作戦の終了を発表し、マリ以外の国々でも駐留部隊の段階的削減や軍基地の再編に向けて動き始めた。フランスが過激派掃討作戦の開始前より、旧植民地の仏語圏アフリカ諸国に影響力を行使してきた経緯を踏まると、フランスの西アフリカ地域からの後退は、同国の対アフリカ政策の転換点となるだろう。
フランスが同作戦終了を決定した理由として、フランスを取り巻く安全保障環境の変化と、西アフリカ各国との関係見直し、が挙げられる。まず、22年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受け、フランスはロシアへの対抗を念頭に、欧州安全保障体制の強化を図っている。同年10月、東欧のルーマニアや、ロシアの隣国リトアニアおよびエストニアへの仏軍兵士の追加派兵を発表した。
このように、フランスの安全保障政策が対ロシア重視にシフトする中、西アフリカに大規模な兵力を引き続き駐留させることは合理的ではないため、フランスは部隊縮小の検討に入ったと考えられる。
次に西アフリカ諸国との関係では、フランスは今後、自国が軍事作戦を主導するのではなく、相手国の要請に応じて、軍事訓練の提供や武器供与、過激派に関する情報共有を軸に、対テロ作戦を支援していく方針である。つまり、現地政府がフランスに協力を求めない限り、フランスは手助けしない考えだ。
フランスが過激派対策で協力していた政権がブルキナファソやニジェールでも軍事クーデターにより相次いで崩壊し、国民の間でも反仏感情が広がっている。過激派対策での協力を通じて、各国の政府・軍と強力なパートナーシップ関係の構築を目指してきたフランスとしては、非協力的な現地政府・国民の意向を無視できず、軍事協力や資金援助を継続する上で考慮せざるを得なくなった。
マリと同様、仏軍が撤収表明したニジェールへのワグネル進出が警戒されている。同社は8月23日の航空機爆発により、創設者プリゴジンをはじめ指導部が一掃されたものの、現時点でアフリカでの活動には大きな変化が見られていない。
この先、ワグネルはロシア政府の監督下に入ったとしても、これまで通り、ロシアの影響力や経済利権の拡大に向けてアフリカで活動していくことが予想される。そして、反仏感情に傾く地域情勢に乗じて、仏語圏アフリカ諸国での活動国拡大やフランス権益への挑戦を試みる可能性があるだろう。