昨年来、北朝鮮が韓国に対して用いる言辞が極めて戦闘的なものになってきている。昨年末には、金正恩総書記は韓国との関係を「同族関係ではなく、敵対的な国家関係」と位置づけ、「2024年は戦争準備強化の新たな全盛期だ」と表明した。
1月15日には、金正恩は国会に相当する最高人民会議の場で、韓国を「第一の敵対国、不変の主敵」と位置付け、憲法を改正すべきだと演説した。この会議では南北対話や協力のための三機関の廃止も決めた。
北朝鮮が戦闘的な言葉を用いるのは珍しいことではないが、ヘッカーらはこの論説において第二次朝鮮戦争の勃発を警告する根拠として、第一に、北朝鮮は長年の間、米国との関係正常化を目指してきたが、結局、その望みはないと見限ったこと、第二に、国際環境が北朝鮮にとって有利なものとなってきたと判断したことを挙げている。
金正恩が戦争を決意したというヘッカーらの見立てが正しいのかどうかは別として、北朝鮮にとって米国からの安全の保障を得ることが重要な国家目標となっているという従来の見方を見直す必要があることは確かであろう。核・ミサイル開発の進展によって、北朝鮮は米国を抑止しうる対米攻撃能力を得たと判断している可能性がある。これは、地域紛争が起こりやすい状況を招きかねない。
また、米国の国力の衰え、複数の対応すべき国際的危機の発生、国内の分裂から、米国が朝鮮半島有事に介入できる程度に大きな限界があると見切っているのかもしれない。
他方、北朝鮮がこれまで何度も繰り返してきた「獲得したいものを得るために緊張を高める」という手法が過去のものになったという証拠もない。2025年1月のトランプ政権の登場を予想しつつ、掛け金を高めようとしている可能性もある。
米国の関与で核・ミサイル開発を止められるのか?
ヘッカーらは、この論説において、米国が北朝鮮と関与する機会を過去に何度も失ってきたことを北朝鮮の強硬姿勢の原因として挙げている。北朝鮮には米国との関与がうまく進めば、核・ミサイル開発を止める気があったのであろうか。
むしろ米国との関与により獲得したいものを得つつ、核・ミサイル開発は国際社会の目を欺きつつ営々と進める考えであったのではないだろうか。そうだとすると、遅かれ早かれ北朝鮮が米国との関与に従来ほど重きを置かない時期がやってきたのだと思われる。
金正恩の「決意」の真偽は分からないが、境界線付近の小競り合いがエスカレーションする可能性も排除できない。そうした可能性も念頭に置いて、危機管理の備えが必要であろう。