適度なストレスが人をレベルアップさせる
――現在、うつ症状に陥る人が増えています。その要因について、どのような見方をされていますか。
篠浦:自我の領域は年齢とともに成熟し、場所が移動していきます。ストレスがあるとそれを乗り越えるのが自我であり、乗り越えるためには新しい回路を作る必要があります。自我がしっかりと機能していれば多少のストレスがあっても飲み込んでいける。
私は今年「ホルミシス」についての本を書きました。少ない放射線をあてると体が活性化するということをアメリカの宇宙飛行士を調べた学者が発表しています。少ない放射線とは少ないストレスであり、そこに活性酸素が出ると抗酸化酵素も出て細胞が元気になる。少ないストレスがくると多様なたんぱく質が分泌され、細胞が若返ってくるのです。これをホルミシス現象といいます。
その中心は脳です。さらにその中心が自我です。人間は他の動物に比べストレスを乗り越える力が一番高い。それは大脳皮質があるから。ストレスを乗り越えるための新しい回路を作る、レベルアップしていくことがホルミシス力。人間にとって一番大事な能力です。
人間には過去からの蓄積で、ストレスを乗り越える力が備わっているのです。そのスイッチを入れてやればいい。本来、ストレスを受けた瞬間から人間はレベルアップするのです。ところが動物脳が優位になっていると、もうダメだと思った時から精神的に不安定になっていまします。
うつ症状が増えるのは、ストレスを乗りこえようとする自然な力を発揮できないから。それは人間教育の欠如が影響していると思います。人から人へ伝えることは単なる知識だけになってしまい、生き方を教える場が減っていることが大きな要因だと思います。
――ストレスに勝てない人が増えたことが、うつが増える要因というのは理解できます。それはコミュニケーション不足や孤立など社会的な傾向にあり、その根っこにあるのが昔からあった風習を捨ててしまったこと。せめて競争することでホルミシス力は養えないのでしょうか。
篠浦:競争ということでは受験競争がありますが、これは脳の一部である左脳を使うだけに過ぎず、人間的に強くなるというものではないでしょう。競争ではなく人の生き方を教えることがホルミシス力を強めていく。学生時代は緩くて社会に出たら厳しくなるのが現代社会ですが、これだとホルミシス力は養えません。ストレスを乗り越える経験が少なくて社会に出るから、うつ症状に陥るケースが増えてくるのでしょう。
ペーパー上の記憶力だけで人を評価する社会ではなく、人間そのものを見る社会になることが必要です。人間関係が薄れているのも問題です。日本人が得意な分野だったのに無くなってきている。それがうつ病が蔓延する背景にあると思えてなりません。
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