対中国ビジネス・ハブ機能の現状
ここで改めて、香港が持つ最大の優位点である対中国ビジネス・ハブ機能の現状を確認しておこう。第1は、対中国貿易中継点としての機能である。香港は世界有数のコンテナ港を有するが、そのランキングは、17年の世界5位から21年は9位に低下している。
この背景には、大陸諸港が急速に整備されて香港港を代替したことがある。同じ時期に、シンガポールは2位を堅持し、釜山は6~7位で推移したが、それ以外では1位の上海を筆頭に寧波、深圳、広州、青島、天津が香港を上回っている。
第2は、対中国投資の仲介機能である。香港は依然として中国本土向け直接投資(中国から見て対内直接投資)の約60%を占めており、優位は変わっていないように見える。
しかし、ここには、中国本土企業が香港に現地法人を設立して大陸向けに投資した分が含まれており、その額は年を追うごとに拡大しているとみられる。逆に言えば、純粋の外国投資を仲介する機能は低下している。
第3は、国際金融センターとしての機能である。香港は、永きにわたり多国籍企業の資金調達や運用の拠点であった。しかし、例えば新規公開株式(IPO)の額を見ると2015~19年の間は、17年を除き世界1位を占めていたが、22年に4位、23年1~9月には8位と後退している。
もっとも、中国政府・香港政府も手をこまねていたわけではない。香港市場において株式や債券の中国本土市場を介した売買を可能とするシステムの整備が進められてきている。
例を挙げると、05年には、中国国内での非居住者による人民元建て債券(通称「パンダ債」)発行が、07年には、中国の政策性銀行・商業銀行による人民元建て債券(同「点心債」)発行が認められるようになった。さらに、17年7月に中国・香港間の債券相互取引制度(同「債券通」:ボンドコネクト)が導入されている。
また、世界の米ドル取引における香港のポジションは上昇しており、取引額は英国、米国に次ぐ世界第3位である。人民元取引においても、香港を中心とした人民元オフショア市場が発展している。ここでは、中国国内のような為替レート変動制限はなく、人民元為替取引の約30%を占めて世界最大である。
以上を総合的に評価すると、香港のビジネス・ハブ機能は、以前より低下しつつ維持されている、ということができよう。
地政学的リスク
しかし、香港の今後にとって最大の問題は、地政学的リスクが高まっていることである。「香港国家安全維持法」制定・施行の直接のきっかけとなった香港における政治的抗議活動の高まりを受けて、米国は「香港人権・民主主義法」(19年11月)、「香港自治法」(2020年7月)を立法した。これは、香港における人権と民主主義の状況を理由として、香港当局者へのビザ制限(前者)、米国銀行による融資停止・外貨取引禁止・貿易決済禁止・国内資産凍結・米国からの物品輸出制限(後者)等の制裁を可能とするものである。
中国政府と香港政府は、米国の圧力にもかかわらず、立法院からの民主派追放・立候補権の事実上のはく奪を行い、さらに香港独自の「国家安全条例」制定に乗り出した。大陸で施行済みの「反スパイ法」の条項が同「条例」に盛り込まれる可能性も強いであろう。