管理職に限らず、女性の数が増えることによって企業にもたらされる価値とは。
得能 社会が変容し、人々のニーズも複雑化する中、「多様性」からしか生まれないような新しいアイデアや技術、製品、サービスなどが求められている。女性が増えることは、労働市場に参画する人口全体のパイが増えるということだが、それは単純な労働力の増強ではなく、新たな発想を生み出しうる存在が増えるということだ。
ただし、ここで誤解してはいけないのは、単に「女性」を増やしたからといって自動的に新しい発想が生まれるわけではないということだ。
日本企業では男性が女性に対して「女性の視点を生かした意見」「女性目線の提案」を求める場面がある。女性がいるほうが「女性目線」の商品開発などができるという発想かもしれないが、そこから離れる勇気を持つことも時には必要である。
そもそも、女性だから「女性の視点」「女性目線」を持っているわけではない。男性だってそうであろう。
あるのは「生活者」「消費者」の視点だと私は思う。その人ならではの「経験」から得られる視点と表現した方が正確かもしれない。
例えば、ある女性が「子育てをしていて、こんなことが大変と感じた」といった意見も、それはその時に子育てを「経験」していた「生活者」としての視点と捉える方が適切だろう。
男性だから、女性だから、という性差ではなく、「生活者」「消費者」として、さまざまな経験や視点を持つ人材が社内に増えることで、商品開発や販売、マーケティングなどさまざまな分野でビジネスチャンスが広がることは明白である。もちろん、経営や組織運営に関しても「女性」の視点は存在しない。
私は男女や人種、国籍に関係なく、多様な人材がいる外資系ラグジュアリーブランド企業にも長く身を置いてきた。日々のディスカッションでも、従業員が持つ多様なバックグラウンドからもたらされる視点は、日本人とはこうも違うものかと実感させられた。もちろん、意見のぶつかり合いは多く、議論慣れには時間が必要であるが、さまざまな意見が触媒になり新たな発想が生まれる素晴らしさを目の当たりにし、得難い経験をさせてもらった。
日本企業も、その重要性に気づいて変わり始めているが、中小企業も含めてさらなる変革を促すためには、多様性がもたらす価値を社会全体で認識し、共有することが必要である。