汚職対策については、21年以降23年10月までの間に、約1300の汚職事案で3500人以上が逮捕・訴追された。23年1月には2人の副首相が解任され、フック国家主席が「監督責任」を問われて辞任に追い込まれた。3人とも有能な人材であり、16年以降の高度成長の陣頭指揮を取り、新型コロナ対策でも世界に誇れる実績を上げ、さらにわが国を含む西側諸国との関係強化にも大きな貢献があった。
こうした事案を見ると、決定権を持っている政府の高官が、将来の責任追及を恐れて、決裁を遅らせたり決定を避けるケースがこれまで以上に増えると思われ、このことがインフラ整備や外資導入、ひいては経済成長に悪影響を生むことが懸念される。
なお、フック国家主席の後任にはチョン書記長の懐刀とも言われるトゥオン書記局常務(当時:52歳)が就任した。同氏は昨年11月に日越外交関係樹立50周年を記念して訪日し、天皇陛下および岸田文雄首相と会談した。
さらに、トゥオン氏の後任の書記局常務には、マイ中央組織委員長が任命されたが、マイ書記局常務は越日議連会長も務めている。ベトナム側の日本重視の姿勢に変化はない。
トランプと習近平の動向も左右
上記社説の中で、今後の懸念材料の一つとしてトランプ氏の再登板が触れられているが、トランプ氏は東南アジア諸国連合(ASEAN)を軽視してはいたが、ベトナムを重視していた。貿易黒字削減要求に対して、ベトナム側は航空機購入などで誠実に対応していた。
むしろベトナム共産党が一番恐れるべきは、「中国共産党の未来」と思われる。経済政策の失敗、人口減少、強権政治、少数民族迫害、戦狼外交など、習近平独裁政権は「国内外からの支持」を着実に失っている。
世界で社会主義を自称する国は、中国、ベトナム、ラオス、北朝鮮、キューバの五か国である。万が一、中国の体制に変化が起これば、統治の中身は大きく異なるとはいえ、ベトナムへの波及は避けがたいと思われる。また、台湾や南シナ海で有事が発生すれば、それはベトナムにとっての有事でもある。