2024年11月22日(金)

プーチンのロシア

2024年3月7日

ウランでのロシア依存続ける米国へのいらだち

 ゼレンスキー氏はミュンヘン安保会議での演説で、ウクライナとの個別の安保協定の締結に動く欧州各国に対し「欧州をめぐってはかつて、あまりに非力なため、自国を守ることもできないとの〝神話〟があった。しかし今、欧州はロシアへの依存を乗り越え、世界をけん引する(安全保障上の)力となりつつある」と最大限の賛辞を述べた。

 一方で米国に対しては、直接的な言及はほとんどしなかったが、ゼレンスキー氏は「対ロシア制裁における、すべての穴をふさがなくてはならない。それは特に、原子力分野について言える」と語った。

 米国は2022年時点で、原子力発電のウラン燃料の24%をロシアに依存し、その状況は今後も大きく変化しないとみられている。ゼレンスキー氏の発言は、ウクライナ支援に後ろ向きになりつつある一方で、ロシアへの依存状況から実は脱しきれていない米国に対する、強い皮肉が込められていた可能性がありそうだ。

 厳しい局面に置かれても、言葉の力を使って国際社会に正義を訴えるゼレンスキー氏の姿勢は戦争開始当初から変わっていない。ただ、国内においては、3年目に突入した戦争に、人々の疲労と苦境は厳しさを増している。

 そのような状況は、ゼレンスキー氏に対する人々の支持という点でも、変化をもたらしている。

国は〝誤った方向〟に進んでいる

 「国は誤った方向に進んでいる ― 46%」「正しい方向に進んでいる ― 44%」

 2月上旬、ウクライナの調査機関であるキーウ国際社会学研究所が実施したウクライナ国内での世論調査の結果は、多くのウクライナの国民が徹底抗戦を望む一方、その心が〝揺らいでいる〟状況を鮮明に映し出していた。

 2022年5月時点では、「正しい方向に進んでいる」が圧倒的に上回っていた。しかし、開戦以降、初めて否定的な意見が上回ったのだ。調査ではさらに、ゼレンスキー氏を「信頼する」との答えが、開戦当初の90%から、60%にまで下落している実態も判明した。

 ただし、ゼレンスキー氏の支持率は、開戦前は37%であったことを鑑みれば、依然として高い支持を得ている。さらに同研究所が昨年12月時点に実施した調査では一方で、「ロシアに対し、領土割譲をすべきか」との問いに対しては74%が「すべきではない」と答えており、ロシアに屈することを大多数の国民は認めてはいない。

人々の本当の思いは

 ウクライナの人々は、実際にはどのように考えているのか。3月20日に発売される拙著『空爆と制裁』にも登場する、ウクライナ国立航空大学のマクシム・ヤリ教授は、2月末に実施した筆者のオンラインインタビューに、こう答えた。

「米国の支援が途絶えれば、われわれは当然、現在の前線を維持することも困難になるだろう。昨年の反抗作戦が成功せず、ロシア側のさらなる反撃が予想されるなか、人々は戦争に疲弊してきているのは事実だ。そのようななか、領土を回復できなくても、ロシアと妥協をしてもよいという声が出ている実態はある。ただ、それでも6割以上の人々が、現在でも勝利まで戦い抜いて、すべての領土を取り戻したいと考えている事実も見逃すべきではない」

 戦意は依然として高いものの、戦争の長期化に疲弊して、勝利をあきらめる人々が徐々に増え始めているというのだ。


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