第五に、米国がクリーン・テクノロジーにまで輸出管理の対象を広げることは、中国を利することになる。共和党は民主党より中国に対して強硬な貿易政策を提唱しているので、再生可能エネルギー、バッテリー技術等クリーン・テクノロジーまで輸出制限が広がれば、米国企業は収益を減らし研究開発を削減せざるを得ず、補助金で支えられている中国企業により有利になるであろう。
このように貿易、制裁、金融、重要物資、輸出管理といった経済分野について見ていくと、トランプ2.0のシナリオは、中国の長期的な利益となる。11月にトランプが勝利することは、中国にとって、混沌、不和、米国の威信への打撃から利益を得るまたとない機会を提供することとなる。
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習近平にとっても厳しい経済課題
地経学、経済安全保障論を専門とするアガサ・デマレによる論説で、中国にとってトランプが大統領となる方が利益になると指摘するものである。視点が経済面に限られていること、単純化した構図で見ていることが気になるが、米大統領選挙後の米中関係を考える素材として意義がある。
トランプが大統領に再選されれば、米国主導の国際秩序が混乱、弱体化することは必至であろう。最近のトランプの北大西洋条約機構(NATO)についての発言(大統領在任中、NATOの「ある大国」の大統領から、NATO加盟国の軍事費負担が不十分な状況でロシアから攻撃された場合の対応について聞かれた際、米国はその国を守らず、ロシアに「やりたいことは何でもするよう促す」と発言した旨を2月10日のサウスカロライナ州の選挙集会で述べたもの)はそのリスクを改めて示した。
トランプ当選時に、そうした混乱、弱体化の「振れ幅」をどれだけ小さなものとするかが日本や欧州にとっての課題となるが、中国にとってはその「振れ幅」が大きくなることが好都合となる。上記論説で、中国がトランプ政権下での「混沌、不和、米国の威信への打撃」から利益を得ると述べているのは、中長期的な国際秩序への影響を考えれば首肯できる指摘である。
一方、中国も足下の問題が深刻となっている。不動産バブルの崩壊、供給能力過剰、輸出不振などにより、資産の目減り、若年層の失業、公務員への給料の遅配などの問題が表面化し、習近平自身が経済的苦境に言及せざるを得ない状況にまで来ている。共産党としては、これが社会不安や現体制への不満の表出に至らないようにすることが当面の重要課題となっているはずである。