中国に対して厳しい立場で臨むというのは、米国において超党派の支持を得られる数少ないアジェンダであるが、貿易面でより強硬な措置を取るのは共和党のトランプであろう。選挙での公約をそのまま実行するかは定かではないが、中国にとって、経済面で直ちに生じる「痛み」は、トランプの方が大きいと予想される。この論説が述べているように「大きな視野から見れば、欧米が経済紛争を始めて争うことの方が重要」と余裕を持って構えるわけには行かないだろう。
核戦力、ロシアとの関係は?
この論説は、安全保障面についてはほとんど触れていないが、台湾有事を考えれば、台湾防衛について積極的な発言をしているバイデンより、ディールを好むトランプの方が中国にとって与しやすいであろう。一方、安全保障分野も、台湾有事の問題だけではない。核戦力の増強については、トランプ政権下の2018年の核態勢見直し(NPR)とバイデン政権下の22年のNPRを比較してみれば明らかなように、中国を意識した核戦力の増強に踏み出すのはトランプの方であろう。
トランプが対露制裁を解除ないし緩和して米露の緊張関係が和らぐとすれば、それは、この論説が説くように中国にとって歓迎すべき展開なのだろうか。米露関係が改善すれば、それは中露関係にも影響を及ぼす。中国にとっては、米露が対立し、ロシアが中国に頼らざるを得ない状況の方が良い面もあろう。
このように考えてくると、トランプ政権とバイデン政権の中国にとっての利害得失は、時間軸(短期か中長期か)、分野(経済、安全保障)のそれぞれによって異なるので、いかなる点を重視するかによって答えが変わってくる問題と見るべきであろう。