缶ビールの空き缶に群がる老人たち
2002年秋、休日に公園で同僚と缶ビールを飲んでいた。飲み終わって缶ビールをゴミ箱に投げ込んだ。その瞬間、突如3人の老人が茂みから飛び出してきて2本の空き缶の取り合いになった。我々が缶ビールを飲み終えるのをじっと近くの茂みから覗いて待っていたのだろう。
2人の老人が一缶ずつ手にして去って行ったが、缶を取れなかった老人は諦めきれずゴミ箱の底に他に缶がないか探していた。空き缶を集めて業者に持って行って小銭と交換してもらうのだ。年金制度の破綻は惨めなものだと骨身にしみた光景だった。
コンサートのクライマックスで聴衆が挙って退場
2002年の秋、モスクワ市内のチャイコフスキー記念音楽院(コンセルバ―トリア)大ホールのコンサート。チャイコフスキー音楽コンクールの舞台でもありスクリャービン、ラフマニノフ、リヒテルなどロシアを代表する音楽家を生み出した歴史を感じさせる音楽堂である。
当日は若手指揮者が地元の楽団を指揮するため入場料が安く日本円換算1000円くらいであった。聴衆は8割くらいの入り。
コンサートの後半のクライマックスに入った瞬間であった。突然数人の観客が一斉に立ち上がり無遠慮に靴音を立てて退席した。それが合図のように三々五々と観客が退席し始め場内は騒然となった。舞台上の指揮者とオーケストラは粛々と演奏を続けていたが、残った聴衆は収容人数の2割程度であった。演奏後の拍手はまばらで、アンコールもなくコンサートは終了。
聴衆が非礼な態度でなぜ退席したのか。プログラムで確認すると、多くの聴衆が拒絶したのはフィンランドの国民的作曲家シベリウスの代表作『交響詩フィンランディア』であった。20世紀初頭帝政ロシアの領土となっていたフィンランド民衆を独立に向けて鼓舞したのが『交響詩フィンランディア』なのだ。ソ連邦崩壊後の混乱の中で自信喪失していたロシア民衆にとり反ロシアを象徴する楽曲に我慢ならなかったのだろう。