新たな技術の先に描く
未来へ通じるストーリー
ワイヤレス給電技術による新しい電源供給インフラの構築を目指すベルデザインも、未来への物語を感じさせるスタートアップの一つ。産業機器向け電源メーカーとして半世紀近い歴史を持つベルニクスから派生して2019年に起業した。「100年変わらないコンセントの配り方を進化させ、新しいライフスタイルを提供する」ことを目指すという。CEOの鈴木健一郎氏はこう話す。
「ワイヤレス給電は文字どおり無接点の給電方法で、漏電や劣化の心配なく長期に使えますので、産業界ではすでに医療機器や産業用ロボット、発電所などに広く普及しています。ですが、一般には一部のスマートフォン以外にほとんど見られず、大半の電気製品がケーブルでコンセントに接続しないと使えません。
再エネなど電気のつくり方は多様化しているのに、送り方が旧態依然としたままではカーボンニュートラルの足かせにもなる。この状況を一刻も早く変えたいと考えています」
そこで開発したのが、対応機器を置くだけで給電できるプラットフォーム「POWER SPOT」。家の中や駅、職場にホテル、街のベンチなどにこれを埋め込めば、いつでも給電できて、充電器やケーブルを持ち歩く必要がない。外付けユニットの付設も可能であるため、早くも家電メーカーや交通機関、不動産会社など多くの企業が賛同を示し、社会実装に向けた協業が進む。対応家電の販売を始めたパートナーもある。
Jパワーも起業とほぼ同時に出資。電気の利用状況や発電元をデータとして管理できるPOWER SPOTの拡張性に着目し、「再エネを選んで使う」といった将来の市場ニーズに向けた連携プレーに期待を寄せる。
一方、そうしたデータドリブンな時代の社会課題に斬り込んでいるのが、分散型データベース向けのミドルウェアを開発・販売するScal ar(スカラー)。「安心できるデータ社会の実現」をビジョンに掲げ、データベース同士の整合性やデータ自体の真正性を証明する技術で世界的にも高く評価される存在だ。CFOの金子雅人氏に説明してもらった。
「データの流通量が爆発的に増えつつある今、社会に分散する複数のデータベースを結んでデータを参照し、さまざまな処理を自動化する必要性が高まっています。その半面、データの改ざんや流出、不整合といったリスクの高まりも同時にあり、事故が起こればビジネス上の損失は計り知れません。私たちはそんな事態を未然に防ぎ、データ管理の信頼性を担保することを使命として研究・開発を行っている会社です」
例えば、データのズレにより、在庫がすでにないのにあるように見えれば、注文が成立しても後からキャンセルを招く。また、電子化が進むにつれ、自社の持つデータの正しさを証明するのが難しくなり、説明責任を課されたり、裁判で証拠にされなかったりなどのリスクが生じる。
大企業を中心に世界中がそのリスク対策に有効な技術の確立を見守るなか、Scalarの製品技術がデータ工学分野で最高峰とされる国際論文誌に採録。2年連続の快挙に国内外の専門家から注目を浴びている。
JパワーにとってはScalarの技術もまた、再エネ電源の発生源証明などに生かせる可能性があり、協業への糸口はもう見えつつある。
Jパワーでは技術シーズの発掘に重きを置き、起業直後のスタートアップを中心に投資する。協業の目星がすぐにつくとは限らない。だが、久保氏と井手氏はこう考えている。
「世の中に未だない価値を生もうと駆け出す彼らに伴走し、新たな視点をもらい触発され、社内が活性化する。リターンだけでなく、そういう波及効果も大きいと思うのです」
だからこそ、出資で終わる関係にはしない。地域と社会がより豊かになれる未来をともに実現したいという。