米政府が10月9日に、エジプトに対する軍事教育支援等は継続する一方、F-16などの大型装備品や支援金2億6000万ドル分の提供を停止すると発表したことに対し、ワシントン・ポスト紙は、このような中途半端な政策では、弾圧を続けるエジプト暫定政権の行動を改めさせることには繋がらない、との社説を10月10日付で掲載しています。
すなわち、エジプトに対する支援の一部停止は、オバマ政権が言う「核心的利益(イスラエルの安全や対テロ政策)」と、リベラルな価値への支持の間で、バランスをとろうとする試みに見える。
しかし、こうした試みがシシ将軍の意向を改めさせるとは思えなし、最近オバマ大統領が国連で訴えている民主主義と人権を守る決意への反映にしては、陳腐な賭けのように見える。
カイロでは、50名以上の抗議者が治安部隊に撃たれるという事件も発生している。これは、シシ将軍が権威の確立に失敗している証拠である。「ムスリム同胞団と交渉すべき」とする米政府やEUの主張をはねつけ、シシ政権はイスラム主義運動を武力によって潰そうとしている。
オバマ政権の当局者は、シシ政権が新たな憲法制定を進めていることを彼らが民主主義へと向かっている証左としているが、これは軍が自らに再び統治能力を与え、議会を形骸化させる都合のよい選挙制度を作ろうとしているにすぎない。
また経済面においては、最低賃金の大幅引き上げや食糧価格の値下げなどポピュリズム的政策を行い、西側諸国のアドバイスを軽視している。このような方策は不況を悪化させるだけである。
米政府は、「民主的に選ばれた文民政府下での法の支配、基本的自由、開かれた競争経済」の下で、エジプトが安定することを求めているが、今回のような中途半端なアプローチでは、このいずれをも推進するようには思えない、と批判しています。
* * *
今回のオバマ政権の決断からは、シシ政権との関係を極力傷つけないための現実的配慮があることが読み取れます。そもそも、F-16等の提供を当面凍結するといっても、エジプトはこれらの装備品を新規調達するわけではなく、現有装備品の更新や追加に充てることを主としていました。ケリー国務長官は、今回の決定以後も米国製装備品のスペアパーツや交換部品の提供は継続すると述べています。