外交配慮なき応酬
イスラエル軍がすでにラファ侵攻作戦を策定したのに対し、米国は住民の安全確保が保証されない限り、侵攻に反対する考えをネタニヤフ政権に再三伝えている。しかし、イスラエル側から住民の避難計画の提示はまだされていない。このため停戦の必要性を表明してきたバイデン大統領のネタニヤフ首相に対する苛立ちは募る一方だ。
大統領は9日の米テレビとのインタビューで「ラファ侵攻はレッドライン(超えてはならない一線)だ」と警告。ネタニヤフ首相は「自国を救うよりも傷つけ、大きな間違いを犯している」と強く批判した。大統領が同盟国の指導者を公然と謗るのは極めて異例だが、インタビュー前にも「ネタニヤフを説教する」と漏らすなど耳を貸さない首相に我慢がならない様子を見せていた。
この大統領の批判にネタニヤフ首相は猛反発した。首相は米政治ニュース専門サイト「ポリティコ」などと相次いで会見。「自分のガザ戦争のやり方は大多数の国民が支持しており、国益に打撃を与えていない。バイデン氏の言い分は間違いだ。イスラエルにとってのレッドラインはハマスの完全壊滅だ」と反撃した。双方とも相手への外交的配慮をかなぐり捨てたような応酬だ。
バイデン政権は、「ガザの住民50万人が飢餓に直面している」(国連)のはイスラエル軍がガザへの支援物資搬入を規制しているためだとして、食料や水などを空からガザに投下する作戦を開始。海上からも物資を届けるため、ガザの海岸に臨時ふ頭を建設する計画に着手した。首相は米国のこうした一連の活動を不快と感じているとされ、2人の関係はさらにこじれている。
米圧力を跳ね返す指導者像を誇示
両首脳の応酬の裏には、それぞれ異なった思惑が働いている。バイデン大統領は11月の選挙での再選を目指して予備選挙を戦っているが、本選挙での共和党の相手はトランプ前大統領で固まった。7日の一般教書演説では温厚な大統領には珍しく、トランプ氏への敵意むき出しの対抗姿勢をあからさまにした。
米紙などによると、当初の大統領の思惑としては、ガザ戦争を1月ごろまでに終わらせ、春からはガザ再建の協議を主導したいハラだった。こうしたシナリオを順調に進めて、党大会のある夏以降は終戦に持ち込んだ「平和の調停者」として外交的な成果を誇示、選挙戦を有利に運びたい考えだった。